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ただAIを使うだけでは無意味、AIから利益を生み出すためには「組織が学ぶこと」が必須という調査結果


現代では多くの企業がビジネスに何らかの形でAIを用いていますが、AIによって経済的利益を得ている企業はわずか10%に過ぎないという調査結果をMIT Sloan Management Reviewが発表しています。AIを使って利益を生み出す企業は何が違うのか、世界中のビジネスリーダーに対して行った調査結果から、いくつかのポイントが判明しています。

Expanding AI’s Impact With Organizational Learning
https://sloanreview.mit.edu/projects/expanding-ais-impact-with-organizational-learning/


ボストン大学のSam Ransbotham氏ら調査チームが世界中の企業のリーダー3000人に対して調査を実施し、同時に企業役員や研究者にインタビューを行ったところ、人工知能技術から大きな経済的利益を得ている企業はAIを導入している企業全体の10%に過ぎないことが判明しました。

調査対象の企業の57%は自社でAIを試験運用あるいは展開しており、59%がAI戦略を有し、70%はAIがビジネスに価値を生み出す方法を理解していると答えました。これらの数字は過去4年間で成長していますが、それにも関わらずAIで大きな経済利益を得ている企業は10社に1社であるというのが今回の調査結果で注目するところです。


研究者らは調査結果を分析することにより、企業がAIで経済的利益を生み出すために必要なものが何かを明らかにしました。端的にいうと、AIが示す経済的利益が増える方法を「学ぶ」組織は、経済的利益を上げやすくなるとのこと。

「AIから学ぶ組織」の特徴は以下の3つ。

・人間と機械の間にある系統的かつ継続的な学習を促進している
・人間と機械が相互作用する複数の方法を開発している
・学ぶために変化し、変化することを学んでいる

経営者の回答を分析した研究者らは、「AIで経済的利益を実現するためにはデータ・インフラ・人材の基礎以上のものを必要とし、ビジネスにAIを取り込んだだけでは十分ではない」としつつも、「AIへの投資から得られるリターンは即時の決算に現れる以上のもの」と述べています。


AIにより得られる利益はゴールではなく、「学習」です。調査より示されたのは、AIにより経済的利益を得ている企業は、意図的に「AIを使った学習者」になろうとしていることでした。

例えばドイツの自動車メーカーであるポルシェは、特定地域の生産を決定する際にAIを利用しています。市場では常に需要が変化し、地域ごとに規制が異なるため、メーカーは常にニーズを理解して継続的に予測を行い、製造を調整をする必要があります。このため、ポルシェのCIOであるMattias Ulbrich氏は「AIに基づいて各市場に提供する数百万のオプションの中から最適な構成を継続的に学習しています」と述べています。

しかし、変化するニーズを感知することだけでは十分ではなく、多くの場合「速度」が重要になります。中国の検索エンジン運営会社であるBaiduはAIを初期の戦略的必須事項にしており、Baidu Researchの Yanjun Ma氏は「これが私たちの効率性・速度・正確性にダイレクトな影響を及ぼしました」と述べていました。

とはいえ、AIで学習し続けることは容易ではありません。研究者は調査の回答から、AIから経済的利益を得ることに影響を与える活動を以下の7つに分類しました。この7つ全てを実行することで、大きな経済的利益を得られる確率が73%増加するとのこと。

◆AIを見つける
◆AIを構築する
1.インフラ:データ、テクノロジー、アルゴリズムに投資する
2.人材:AIスキルを発展させる
3.戦略:ビジネス戦略にAIを統合させる
◆AIを拡大する
4.製造と消費を調整する:AIの解決法を効率よく適用する
5.自動化以上のこと:AIを使用事例に適用させていく
◆AIと共に組織的学習する
6.知識:AIと人間で知識を共有する
7.役割化:人間とAIの相互作用を構築する

7つの活動を1つずつ実行していくことでどのように確率が上がっていくかは、以下の図の示すとおり。


特に鍵となってくるのはAIと人間が相互に学習することですが、これは具体的にいうと「人間はAIから学習し、AIは人間のフィードバックから学習し、人間が自律的に学習するようにAIをデザインする」という取り組みにあたります。

人間の経営者はビジネスに最良の結果を生み出す方法を考えますが、時にAIは予想外の方向から代替手段を提案します。たとえば配車サービスのLyftでは、かなり早い段階でエンジニアが「ドライバーの供給」と「顧客の需要」を一致させることで収益を最大化させるアルゴリズムを設計しました。しかし、LyftのAIは需要と供給を一致させるのではなく、ユーザーがアプリを開いた後、実際に乗車をリクエストした割合である「コンバージョン率」を最適化することが、将来的な収益の増加をもたらすと予測。実際にAIが示した考えを実装したところ、以前よりも多くの収益をもたらしたことが実証されました。この時重要だったのは、AIの解決策を人間の考える方法でテストすることだったため、「AIの計算と人間の知識」の組みあわせによって事業全体に大きな影響を与えることができたと考えられています。

そして調査から、企業で行われている人間とAIの連携は「AIが決定と実装を行う」「AIが決定し人間が実装を行う」「AIが推奨し人間が決定を行う」「AIが発見し人間がその知見を決断に用いる」「人間が作り出したものをAIが評価する」という5つの形があるとわかっています。最も多かったのは左から3つ目のグラフで示される、「AIが推奨し人間が決定する」というやり方。


また、複数の連携方法を組織内で日ごろから行える企業は、より経済的利益を得やすくなります。


そして複数の連携方法を取るだけでなく、必要に応じて方法を変更できることも重要。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックでは、社会が突然大きく変容し、オンラインショップで人の行動を監視するためにこれまでとは異なるアルゴリズムの必要性が増しました。ウォルマートの機械学習部門代表であるPrakhar Mehrotra氏によると、パンデミックで新たに導入されたアルゴリズムは当初、人間の手を多く必要とするものでしたが、データを蓄積していくことでAIシステムが学習し、適切なオススメが可能になったとのこと。

適切に設計されたシステムでも状況が変化すれば求められることが変化します。このため、経営者は状況により変化させる心づもりをする必要があるわけです。AIを使用した組織的学習は、5つの連携方法をできるだけ多く用いること、適切な連携方法を状況に応じて用いること、連携方法を迅速に切り替えることの3つが重要だと研究者は述べています。

しかし、たとえ人間とAIの間で相互作用があったとしても、最終的にAIの提案による変化を拒否していては利益は生まれません。

AIを使った学習は、時に不快な変化も伴います。Mehrotra氏は「アルゴリズムは組織図や、マーチャンダイジングの定義、サプライチェーンの機能について知りません」と述べ、AIが組織規範や役割、それぞれの従業員に求められる行動、経営者の対応などを全く無視する点を指摘。このため最善の結果を生み出すと理解していても実際に企業内のプロセスを変更することが非常に難しいと説明しています。しかし、AIのもたらす不快感を認識し、それを乗り越えてAIを操作する方法を組織全体で学ぶべきだとMehrotra氏は述べました。

AIの提案を元にビジネスプロセスを変化させることは困難が伴います。しかし今回の調査では、「ビジネスプロセスに全く変化を加えなかった」企業が経済的利益を得られる確率は4%ですが、「大きな変化をビジネスプロセスに加えている」企業はその確率が5倍である20%にまで増加するという結果が得られており、リスクを認識しつつもAIによる改革を実行した企業はより大きなリターンを得る可能性が高いことが示されています。

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in メモ, Posted by darkhorse_log

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