新型コロナウイルスの流行に伴って陰謀論が広まることがなぜ危険なのか?
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大に伴い、インターネット上では出所不明なものも含めてさまざまな情報が飛び交っています。中には「新型コロナウイルスは人為的に作られた」という陰謀論まで拡散される事態となっており、心理学の専門家が「新型コロナウイルスの流行は陰謀論の普及を後押しする危険がある」と警告を発しています。
Coronavirus is a breeding ground for conspiracy theories – here's why that's a serious problem
https://theconversation.com/coronavirus-is-a-breeding-ground-for-conspiracy-theories-heres-why-thats-a-serious-problem-132489
世界中に混乱をもたらす新型コロナウイルスについては、「巨大な力を持つ何者かによって拡散されている」「新型コロナウイルスは中国との戦争を行うために中央情報局(CIA)が作成した生物兵器である」「ビル・ゲイツ氏が新型コロナウイルスの流行に関与している」といった陰謀論がささやかれています。また、「アメリカとイギリスの政府がワクチンからお金を稼ぐために、わざと新型コロナウイルスを持ち込んだ」という説を信じる人もいる模様。
こういった陰謀論の多くは、およそ信じる人がいないバカげたものだと見なされがちですが、実際には新型コロナウイルスが流行する前から「世界を動かす巨大な力が存在する」などの陰謀論を信じる人は増えていました。2019年に行われた(PDFファイル)調査では、スペイン人の回答者のうち16%が「ヒト免疫不全ウイルス(HIV)は秘密の組織によって作成され、拡散されたものだ」という陰謀論を信じており、フランス人の27%とイギリス人の12%が「ワクチンの悪影響に関する事実は意図的に隠ぺいされている」と信じていたとのこと。
新型コロナウイルス感染症の流行に伴う陰謀論の普及に関して、ノーザンブリア大学で心理学の上級講師を務めるDaniel Jolley氏とマインツ大学の心理学研究者であるPia Lamberty氏は、「医療に関連する陰謀論の普及は、新型コロナウイルス感染症の流行と同じくらい社会にとって危険である可能性があります」と指摘しています。
2017年の研究では、「陰謀論が普及するタイミングは社会危機に関連していることが多い」と示されています。テロ攻撃や急激な政治的変化、経済危機といったイベントに直面した人々は、将来が不透明な現状をどうにか理解したいという欲求が強くなるため、「世界の真実」について語っているように思えてしまう陰謀論が普及しやすいタイミングだそうです。
そのため、新型コロナウイルス感染症の流行によって社会的な不安が高まっている状況も、陰謀論が普及するには打ってつけのタイミングだといえます。同様の状況は2015年から2016年にかけてジカ熱が世界的に流行した際にも発生し、「ジカウイルスは自然発生したものではなく、生物兵器である」という陰謀論が広まりました。
by Metropolitan Transportation Authority of the State of New York
公衆衛生上の危険性が高まった場合に重要なのは、人々が医療専門家や公的機関の呼びかけに耳を傾け、健康危機に社会が一致して対処することです。しかし、陰謀論を信じる人は一般に医師や政治家、製薬会社、公的機関といった「権力のあるグループ」を信頼しないため、医学的アドバイスに従う可能性が低くなってしまうとJolley氏らは指摘。
医療に関する陰謀論は医療当局への不信感を高めるという研究結果も示されており、陰謀論を信じる人々は公式なアドバイスよりも「陰謀論に基づいた自己防衛」に走りがちだとのこと。医学的な陰謀論を信じる人は、ワクチン接種を受けたり抗生物質を使用したりする代わりに、通信販売で購入したハーブのサプリメントを服用する傾向があります。また、同じ陰謀論を信じるグループが推奨する非医学的なアドバイスに従いやすいそうです。
新型コロナウイルス感染症の予防策としては、こまめな手洗いや危険な国や地域から帰国した後の自己隔離などが推奨されていますが、陰謀論を信じる人はこういったアドバイスに従う可能性が低くなります。むしろ反対に、こうした予防方法に否定的な態度を取って間違った治療法を実践した結果、ウイルスが拡散する危険性を高めて周囲の人を危険にさらしかねないとのこと。
また、医療に関する陰謀論は社会コミュニティの分断をもたらす危険性もあるとのことで、Jolley氏らはかつてヨーロッパでペストが流行した際に「ユダヤ人がペストを引き起こした」という説が広まった結果、大勢のユダヤ人がスケープゴートとして迫害や虐殺の対象になったことを指摘。既に新型コロナウイルス感染症の拡大によって、アジア人やアジア系の人々が差別の対象となりつつあり、危険な状態だとJolley氏らは考えています。
陰謀論の普及を阻止する手立てとしては、陰謀論を否定するキャンペーンを行うことに陰謀論の普及を阻止する可能性があるほか、フェイクニュースを扱ったゲームをプレイすることで、フェイクニュースにだまされにくくなることがわかっています。
Jolley氏らは「陰謀論は社会にとって有害なものです。陰謀論は人々の健康に関する選択に影響を与えるだけでなく、異なるグループの相互関係を妨害し、陰謀の背後にいると思われる人々に対する敵意と暴力を増加させます」と述べ、政府は新型コロナウイルス感染症の拡大を阻止するだけでなく、陰謀論の拡散を阻止するための行動も起こすべきだと主張しました。
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