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問題を解決するシンプル&抜本的な方法を導く「上りの考え方」を旅行サイトExpediaの事例から学ぶ


「問題解決に何年もかかっている場合、『そもそもその問題が起こらないようにする』という点が見逃されている可能性がある」ということで、旅行サイトのExpediaが年間110億円ものコストを発生させていたカスタマーサービスの問題を解決した事例を取り上げて、シンプルかつ抜本的な問題解決の考え方を、作家のダン・ヒース氏がつづっています。

How Expedia Solved a $100 Million Customer Service Nightmare
https://marker.medium.com/how-expedia-solved-a-100-million-customer-service-nightmare-d7aabc8d4025


旅行サイトExpediaのカスタマーエクスペリエンスグループの責任者であるライアン・オニール氏は2012年、コールセンターのデータを見ていて「Expediaで旅行を予約した顧客100人のうち58人が何らかの助けを求めてコールセンターに電話をしている」という驚くべき事実に気づきました。

そもそもコールセンターは「できる限り迅速にお客様をハッピーにさせる訓練を積んだ担当者がいるところ」です。ここで重要なのは「迅速に」という点で、速ければ速いほど電話料金、つまりコストが削減できます。このためコールセンターの管理者は「10分かかる電話を2分で処理できるようにする」ということに尽力するわけですが、一方で、「電話がかかってくる本数自体を減らす」という取り組みが長年にわたり見逃されていたそうです。


問題解決に何年もかかっている場合、「そもそもその問題が起こらないようにする」という点が見逃されていることがあります。オニール氏は自身の発見をすぐに上司であるタッカー・ムーディ氏に報告。そして2人は、そもそもの問題である「なぜこんなにも多くの顧客が電話をかける必要があるのか?」という調査を開始しました。

その結果、顧客が電話をかける最たる理由は「旅の工程の確認」であることが判明。旅行工程の確認電話は、2012年だけで実に2000万件もあったそうです。電話1本に5ドル(約540円)のコストが発生したとして、全体で約1億ドル(約110億円)のコストがかかる計算になります。


顧客が旅の工程を電話で確認する必要があった理由は、情報入力欄でメールアドレスを打ち間違えて適切に確認メールを受け取ることができなかったり、メールがスパム扱いされたりしたためでした。このような理由で旅行工程を受け取れなかった顧客がウェブサイト上で情報を確認する方法が、当時はなかったのです。

オニール氏とムーディ氏はこの問題を当時のCEOであるダラ・コスロシャヒ氏に報告しました。コスロシャヒ氏は2人に対して、カスタマーエクスペリエンスチームの中心となって問題解決に集中することを最優先のタスクとして指示。普段は社内で異なるグループとして働く人々が集められ、毎日ミーティングが繰り返されました。そして、電話案内の自動音声に「旅行工程の確認は2を押してください」といった案内が組み込まれ、メールがスパム扱いされないよう処理され、顧客がオンラインでも旅行工程を確認できるよう仕様変更が行われました。この結果、58%もあったカスタマーサービスへ電話をかける顧客の割合が、2020年時点では15%にまで減少しているとのこと。

コールセンターに関するExpediaの問題解決は「上り」の介入によるものだとヒース氏は指摘しています。ここで言う「上り」とは、問題がそもそも起こらないようにする対策であり、対の概念となる「下り」の介入は問題が発生してから解決に取り組むことを意味します。


もちろん下りの介入よりも上りの介入の方が得策なのは明らかですが、Expediaの場合、電話の数が700万件程度だった時には問題が取り上げられず、2000万件になって初めて問題が認識されました。これはExpediaが多くの企業同様、社員がグループに分けられ、グループ内の社員はそれぞれの問題にフォーカスを当てるよう指示されていたためだとみられています。つまり、カスタマーサポートグループの仕事は「顧客の問題を迅速に解決すること」であり、「そもそも顧客が電話する必要を減らすこと」ではなかったため、問題が認識されなかったのです。これにより、カスタマーサポートグループの掲げた目標が、実際には多くの電話を生み出していたこともあるとのこと。

2017年から2019年までExpediaのCEOを務めたマーク・オカストロム氏は「組織は従業員に『集中すること』を求めますが、これは必然的に近視的になる権利を認めるものです。問題がある時には『ミッションを定義し戦略を練り問題解決にリソースを割け』と指示されますが、これはつまり、取り組んでいるもの以外は無視する権利を持つということなのです」と述べています。オカストロム氏の語った内容は、組織の強みと弱点を両方表しており、弱点を克服するにはより統合的で新しい「上り」の解決策が必要です。

同様の問題は、企業だけでなく警察という組織の中にも存在するとヒース氏は指摘しています。ヒース氏がカナダの都市警察と話をしたところ、警察は犯罪の予防よりも犯罪への対処に過度に集中しやすいという話を聞いたとのこと。警察の多くは将来の犯罪予防として道を外れかけた子どもとじっくり話すより、実際に泥棒を捕まえる方を好むそうです。

上りの対策にはあいまいさが付きまといます。交通事故を例にすると、警察官がある家族に交通ルールをしっかりと説明しても、「起こらなかった事故」は証明できません。予防によって全体の事故数が減って初めて効果が証明されますが、それでも警察官は「救った人々」を見ることができないため、実感は小さくなります。

もちろん、上りの介入策が常に正しいわけではなく、下りの解決策を軽視していいわけでもありません。しかし、上りの発想により、解決策をより大きな視点で考えることが可能になります。子どもの溺死を防止するにはどうすればいいか?と考えた時、下りの発想だと「ライフセーバーを雇う」になりますが、上りの発想だと「子どもに泳ぎ方を教える」となります。日常レベルで物事を考える場合でも、上りの発想を意識すると、よりシンプルな方法で問題を根本的に解決できるといえます。

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in メモ, Posted by darkhorse_log

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