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数々のエンジニアリングチームを導いた人物がマネジメントの中から学んだ教訓とは?


多くの人が集まる企業やプロジェクトチームをまとめ、率いていくことは多くの困難がつきまとうものです。生き物のように変化する状況に合わせて対応をとることがリーダーには求められるわけですが、そんな仕事で重要なポイントについて、過去にYahoo!やLoudcloudといった名だたる企業でチームを作り、率いてきたティム・ハウズ氏がノウハウを語っています。

What I Learned Scaling Engineering Teams Through Euphoria and Horror - First Round Review
http://firstround.com/review/what-i-learned-scaling-engineering-teams-through-euphoria-and-horror/

「私はこれまでさまざまなエンジニアリングチームに携わり、陶酔感に包まれている時や、危機におびえている時など、さまざまな段階で組織のスケーリングを行ってきました」と語るティム・ハウズ氏。ハウズ氏は、1990年代後半には当時急激な普及を見せていたインターネットの企業活用をサポートする企業「Loudcloud」を元Netscapeのマーク・アンドリーセン氏らと共同で立ち上げ、18カ月で従業員650名を抱える企業に成長させた人物です。


その後の2002年には社名を「Opsware」に変更し、データセンタ自動化ソフトウェアの開発でトップクラスのシェアを占めるに至ります。一時は苦戦も見られたOpswareですが、2007年にはヒューレット・パッカード(HP)によって16億ドル(当時のレートで約1900億円)で買収されています。その後もハウズ氏はソーシャルブラウザ開発の「Rockmelt」を立ち上げ、後にはアメリカのYahooに買収されるに至っており、ここでも150名だったエンジニアリングチームを350名にまで拡大させるという、チームマネジメントの専門家とも言える人物として名をはせました。

紆余曲折を経て大小のチームを作り、分割し、成長させてきたハウズ氏がそのキャリアで学んだという組織のスケーリング術は以下のようなものになっています。

◆1.人材:自らのチームの専門家になる
チームが成長する段階にておいて重要なのは、その心理状態を把握し、いかに適切な人材を適所に配置するかということだとハウズ氏は語ります。10名の組織を率いるのと100名の組織を率いることは全く違うものであり、ハウズ氏はここで、必要とされる人材の3つのパターンに気がついたそうです。

・i 「賢者」と「予言者」
どんなチームでも、立ち上げ時からずっと在籍し、誰もが助言を求める「賢者」のような人物がいるものです。しっかり蓄えられたヒゲに伸び放題の髪、そして独自のオーラを放つような人物が賢者のイメージで、そのような人物が重要であったことは否定できないのですが、ある時点が来ると状況は変化し、もはや皆が賢者に助言を求めるだけの段階は終わりを迎えます。そして次に重要になってくるのが、新しいアイデアを自分から周囲に発信し、皆を導く「予言者」のような人物です。

・ii 「消防士」と「消防保安官」
消防士が火を消す人であるとすれば、消防保安官は火災の原因を調査し、法を犯した者を特定して逮捕することができる人ということになります。組織の初期の段階では、問題が生じた時にそれを解決する人が最も評価されるわけですが、組織が成長するにつれ、「問題を起こさせないための人・仕組み」が重要になってきます。

・iii 「デニス・ロッドマン」と「ガン細胞」
周囲と衝突し、ルールを破り、しかし成果はあげるという、まるでバスケットボール選手のデニス・ロッドマンのような型破りな人物がいる一方で、勤務態度が悪く、周囲に不満ばかりを漏らしてチーム全体の士気を下げる人物がいるものです。このような人物は組織にとって「ガン細胞」とも言うべきものであり、ものすごい勢いで増殖することがあるので速やかにしかるべき措置を取る必要があります。同じ増殖するのであれば、求めるべきはチームを導き、良い連鎖を生む「良いガン細胞」です。そのような人物が現れた場合には、きちんと見返りを与え、さらに成果を上げられるための環境を整備してあげることが重要だとハウズ氏は語ります。

By screenpunk

◆2.人事:最大の投資である人材選びをいい加減にしない
ハウズ氏は、Opsware時代に自分が雇い入れた人物が全て自ら会社を去り、あるいは解雇されていったことを振り返ります。「彼らは優れたエンジニアで、会社に対する忠誠心もありましたが、新しく入ってきたスタッフに対してかたくなな態度を取り、うまく折り合いを付けることができませんでした」と語り、ここからハウズ氏は、人物選びの段階に重きを置かず、その後の研修や実際のチームでの融合にばかり注力すると、結局は時間と人材を無駄にしてしまうということを学んだといいます。

多くの企業でついおろそかにされがちな「人事」のプロセスですが、組織が成長するほどリーダー自らが関わることが重要になってきます。組織が大きくなると、最初のころよりも自分の言葉が末端まで届かないようになってきます。チームの中で「人事」を重要な仕事であるという考えを共有し、リーダーだけでなくチーム全体で力を注ぐことが必要です。ハウズ氏によると、YahooやAmazonのような企業には「人事委員会」という組織が存在し、人材選びの際に委員全員で候補者の書類を確認して会社にふさわしい人物であるかどうかを判断しているそうです。

By Startup Stock Photos

◆3:組織・仕組みを整えて混乱を起こさせない
組織が成長し拡大するにつれ、チームを一貫して管理することが重要になってきます。ハウズ氏はチームをスケーリングするうえで、「垂直型組織」の有用性を唱えています。その方法についてハウズ氏は「私がYahooで仕事をしていたころは、18か月でチームを150名から350名に拡大しました。それでもなお継続して成果をあげ、組織としての健全さを保ってきたのは、小さなチームが独立して仕事にあたってきたからです」と語っています。

しかしここでハウズ氏は、必ずしも垂直型組織のみが成功すると唱えているわけではないといいます。ここで大事なことは、どのような構造の組織であれ、マネジメントの役割を構築し、組織を導く役目のポジションを作って徹底させることだと語っています。

By Startup Stock Photos

組織が大きくなるにつれ、さまざまな能力を持つ人材が集まることで統制がとりづらくなるのは避けようのない事実です。組織が50名以上の大所帯になり、マネジメント構造がきちんと整えられていないと、次第にメンバーの何人かが「自分がチームを率いるのだ」と思うようになります。こうなると文字どおり事態は「船頭多くして山に登る」であり、おのずと結果は失敗に終わることになるでしょう。

また、避けなければならない事態として「組織が大きくなるにつれ、仕事が遅くなること」をハウズ氏は挙げ、「モバイル分野であろうとウェブであろうと、その他のどんな分野であろうと、最も大事なことは『早く製品を完成させること』です」と語っています。

◆4:コミュニケーション・繰り返し発信して伝える・伝わるようにする
組織が大きくなるにつれ、コミュニケーションを取る難しさが露呈してきます。創業者の自宅から始まった会社がオフィスに引っ越し、フロアが分かれるようになると、もはや口頭でみんなに意見を伝えることなど不可能になってきます。

ハウズ氏は「会話でのコミュニケーションは帯域幅の広い『ブロードバンド』な状態と言えます。ここでのやり取りは双方向でインタラクティブなものです。しかし、これが50名や100名になると、もはやインタラクティブではなく『一対多』の状態になります。このような状態では相手からの反応を確認することができないので、メッセージの内容を明確にすることが重要になってきます」と語り、考え方を変化させる重要性と説いています。そしてここで有効な方法が「何回も伝える」ことだと言います。

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とは言っても、単にメールや書類をどんどんと送りつけることだけではコミュニケーションと呼べるものにはなりません。大事なのは、その方法を使い分けるということ。例えば、プログラム開発のような分野だと構造レビューやプログラムレビュー、スケジューリングなどの情報共有をシステム化することにより、チーム全体がいま何を行っているのかを把握することができるようになります。

このコミュニケーションが固いものだとしたら、一方の柔らかい、つまり気楽なコミュニケーションも重要なものとなります。組織が大きくなってスタッフ同士の関わりが薄くなってきたら、ランチミーティングや飲み会のような場を設けるのも大切です。ハウズ氏は「Yahooにいた時、ある管理職の一人が「Three at Four」というスタイルを編み出しました。これは、3名のスタッフが毎週金曜日の4時に集まって、技術的な話題を2つ、技術に関係ない話題を1つ話し合うというものでした。この方法を採ることで、スタッフはお互いに集まってコミュニケーションを取ることを考えるようになりました」と手法の1つを紹介しています。

◆5:品質・運任せにせずにコントロールする
スケーリングを行うということはすなわち、従来の規模の組織では実現できなかった量や内容の製品を生みだす必要が生じているということに他ならないはずです。そうなると、管理すべき内容はどんどんと増加し、全ての内容に目を通すことは不可能に近づいて行ってしまいます。

ハウズ氏はYahooでのエピソードを振り返り、「私がYahooに加わったときに目の当たりにしたのが、素早く納品するための技術でした。そして品質も素晴らしいものでしたが、それでもなお私たちが求めるレベルには達していませんでした」と語っています。

By Intrinsic-Image

そこでハウズ氏は、3つのキールールを定め、企業の品質文化を作り上げることにしたそうです。その「キールール」とは、以下のようなものとなっています。

・i 注意を払う
これはシンプルな方法で実現することが可能です。ハウズ氏は「プロジェクトを管理するページにダッシュボードを設け、全ての製品レビューを「品質はどうか?」という質問ではじめること。そして、問題を抱えている担当者に毎日、もしくは毎週ごとにメールを送ることです」と語ります。ハウズ氏がこの手法を取り入れ、そしてそのことをスタッフに周知徹底するようにすると、おのずから各スタッフが自ら問題の回避策を採るようになったといいます。

・ii チェックリストを充実させる
多人数によるプロジェクトを進めるメリットは、多くの知恵が集まってくることにあります。ハウズ氏は、そんな知恵の多くをチェックリストに落とし込むことで体系化することを薦めています。「バイナリサイズはどのぐらいか?」「メモリの占有量はどのぐらいか?」「どのぐらい長くクラッシュさせずにモンキーテストを続けることができたか?」など、200以上にも及ぶチェック項目がハウズ氏のチェックリストにはリストアップされていたといいます。そして次に、ハウズ氏はそれらのチェック項目を自動で実行できるツールの作成に着手。そうすることで、各チームの負担軽減を行いました。この手法により、製品の品質は大きく向上。各チームが持っていたノウハウが広く共有される結果になったとのことです。

・iii レビューと自動化テストを組み込む
コードレビューや機能テスト、ユニットテストなど全てのチェック内容は、1つの究極のゴールにたどり着くといいます。ハウズ氏は「それらは全て、良いコードを構築することにつながります。機能テストやユニットテストの目的はそれが最も重要です」と語り各段階でテストを組み入れることの重要さを強調。そしてさらに「エンジニアたちに、正直であること、そして『同僚にチェックされるから』ではなく、自分自身のコードの品質を上げることに注力させること」の重要さを説いています。

By Startup Stock Photos

◆まとめ
さらにハウズ氏は「『宗教』に捕らわれるな」というアドバイスを送っています。これは、「チームにピッタリな究極のコーディング法」や「誰もが満足するチェック方法」のような、ありもしないものにとらわれるべきではないという意味。ハウズ氏の経験では、チェック方法や内容に反対意見が出ることもありましたが「まずは1つやってみて、前に進むこと」が大事だとアドバイスしています。

過去20年で6つの会社を渡り歩き、何百というエンジニアをまとめ上げてきたハウズ氏は、これまでに成功と失敗の両方を経験してきたといいます。その中で、リーダーに大事なのは間違いを犯し、そこからさらに一歩進んで学ぶこと。ハウズ氏は「難にでも使える万能なソリューションは存在しません。物事は失敗するものです。重要なのは、常に自分を認識し、間違いに気がついて正しく指摘できることです。スケーリングとは、改革を繰り返すことなのです」と語っています。

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in メモ, Posted by darkhorse_log

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