サイエンス

「呼吸する必要がない動物」が意外なほど身近な場所から発見される

by Stephen Douglas Atkinson

酸素は、人間を含めて地球上のほとんどの動植物が呼吸のために必要な物質です。酸素が不要な生き物としては、単細胞生物である嫌気性細菌などがいるほか、2010年には初めて「酸素が不要な多細胞生物」が地中海の底に沈殿する泥の中で発見されました。そんな中、新たに酸素が不要な動物が意外なほど身近な環境で見つかり、「一体どうやって生きているのかが不明」と注目を集めています。

A cnidarian parasite of salmon (Myxozoa: Henneguya) lacks a mitochondrial genome | PNAS
https://www.pnas.org/content/early/2020/02/18/1909907117

Scientists discover first known animal that doesn't breathe | Live Science
https://www.livescience.com/first-non-breathing-animal.html

Scientists Find The First-Ever Animal That Doesn't Need Oxygen to Survive
https://www.sciencealert.com/this-is-the-first-known-animal-that-doesn-t-need-oxygen-to-survive


Scientists accidentally discover first 'animal' that doesn't breathe oxygen - CNET
https://www.cnet.com/news/scientists-accidentally-discover-first-animal-that-doesnt-breathe-oxygen/

サケやマスがHenneguya Salminicola(ヘネガヤ・サルミニコラ)という寄生虫に感染すると、切り身の表面に乳白色の丸い斑点が見えることから、水産関係者らはこの斑点を「タピオカ病」と呼んでいます。タピオカ病にかかった魚の肉は見た目が悪くなってしまうものの、人間や動物が食べても害はないことから、これまで特に関心を集めることはありませんでした。

by Michal Maňas

そんなヘネガヤ・サルミニコラに驚くべき秘密があることを突き止めたのは、イスラエルにあるテルアビブ大学の動物学者Dayana Yahalomi氏らの研究グループです。Yahalomi氏らは当初、「サケの体内」という酸素が乏しい状況でヘネガヤ・サルミニコラがどうやって呼吸しているのかを調べるため、ヘネガヤ・サルミニコラのミトコンドリアDNAの解析を試みました。研究者がミトコンドリアDNAの解析を行おうとしたのは、ミトコンドリアが人間を含め酸素で呼吸している生物の細胞には必須の器官であるためですが、繰り返し調べても、ミトコンドリアに似た器官は見つかるものの、ミトコンドリアDNAを抽出することはできませんでした。


困り切った研究グループがヘネガヤ・サルミニコラの仲間である寄生虫の(PDFファイル)Myxobolus squamalisを調べたところ、やっとミトコンドリアDNAを発見することに成功。2種を比較することにより、ヘネガヤ・サルミニコラにミトコンドリアが存在しないことが突き止められました。また、さらに詳細な調査により、ヘネガヤ・サルミニコラには普通の生物の核遺伝子の中に存在する、ミトコンドリアDNAの転写と複製に関する遺伝子すら無いことも判明したとのことです。

ミトコンドリアが無ければ酸素を使った呼吸ができないため、ヘネガヤ・サルミニコラが一体どうやって生きているのかは不明ですが、論文の共著者であるDorothée Huchon氏によると「特殊なたんぱく質を用いて、宿主からアデノシン三リン酸(ATP)を盗んでエネルギー源にしている可能性があります」とのこと。ATPとは、細胞が呼吸によりエネルギーを生成する過程で作られる物質で、生体内における物質の代謝や合成に重要な役割を担っていることから「生体のエネルギー通貨」と呼ばれることもあります。

by Stephen Douglas Atkinson

また、Huchon氏は「ヘネガヤ・サルミニコラのようなミクソゾアの仲間は、動物界で最小サイズのDNAを持っているため、効率的に繁殖することが可能です。これにより、比較的無害なヘネガヤ・サルミニコラを含めて、同様の寄生虫は海の魚のほとんどに感染することに成功しています」とコメントしました。

研究グループは論文の中で「我々の発見は、単細胞の真核生物だけではなく、多細胞生物や寄生生物も酸素が無い嫌気的な環境に適応し進化したことを示しています。この発見により、生物が好気的な環境から専ら嫌気的な代謝を行う方向へと進化する過程を理解することができるでしょう」と述べています。

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in サイエンス,   生き物, Posted by log1l_ks

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