サイエンス

スポーツドリンクに含まれる「電解質」には意味がないという研究結果


血中の電解質は細胞の浸透圧を調節したり、筋肉細胞や神経細胞の働きに影響を与えたりする重要な役割を持っています。しかし、スポーツドリンクなどに含まれる電解質については、スタンフォード大学医学部などのアメリカの複数の医学研究機関による合同研究チームが「ほとんど意味はない」という研究結果を発表しました。

Effect of Sodium Supplements and Climate on Dysnatremia Duri... : Clinical Journal of Sport Medicine
https://journals.lww.com/cjsportsmed/Abstract/2021/11000/Effect_of_Sodium_Supplements_and_Climate_on.15.aspx

Electrolyte supplements don’t prevent illness in athletes | News Center | Stanford Medicine
http://med.stanford.edu/news/all-news/2020/02/electrolyte-supplements-dont-prevent-illness-in-athletes.html

Workout hacks: Ultramarathon study reveals what actually boosts performance
https://www.inverse.com/mind-body/why-athletes-should-skip-electrolyte-supplements-human-performance-study

研究チームが研究の対象としたのは、通常の42.195kmよりもはるかに長い距離を走り抜くというウルトラマラソンでした。研究チームは6日間で250kmの距離を踏破する「Racing the Planet」というウルトラマラソン競技の中でも、南アメリカ・モンゴル・ナミビアで開催された5つの大会の参加者計266人を被験者として実験を行いました。Racing the Planetは世界屈指の過酷なレースシリーズのひとつとされており、その経験は「肉体と精神の限界を超える」といわれています

行われた実験は、以下の3種類です。

・レース開始前に「水分補給戦略」の予定を、50マイル(約80km)地点で「どれほどの忠実に水分補給戦略を実行できたか」を尋ねるアンケート調査
・始地点と50マイル地点での体重測定
・50マイル地点での血液検査

「水分補給戦略」というのは、過酷なレースの中で「どんな種類の飲料を持って行くのか」「どんなタイミングで飲むのか」というプランを指しています。アンケートの回答によると、1時間ごとに塩の錠剤を服用する人もいれば、水で溶かすタイプのスポーツドリンクを持ち込んだ人もいたとのこと。しかし、いずれの被験者も「なんらかの電解質サプリメントを摂取する」という戦略は共通していました。


電解質とは、水に溶けると電気を通す物質のことで、主要なものはナトリウムイオン・カリウムイオン・カルシウムイオン・マグネシウムイオンなど。電解質は細胞の浸透圧を調節したり、筋肉細胞や神経細胞の働きに影響を与えたりするとして、多くのスポーツドリンクが電解質を含んでいることを宣伝しています。

電解質(イオン)とは|大塚製薬
https://www.otsuka.co.jp/nutraceutical/about/rehydration/water/electrolytes/


研究チームは電解質の中でも特に重要なナトリウムに着目。被験者の血液を分析したところ、50マイル地点で41人が血中のナトリウムバランスが崩れており、11人は血中のナトリウムが少なすぎるという低ナトリウム血症を、30人は血中のナトリウムが多すぎて脱水症状を起こしていたと判明。この症例と水分補給戦略を分析した結果、レース中に摂取した電解質サプリメントの量・種類・方法などは血中のナトリウムレベルと全く関係がなかったことが示されたとのこと。それゆえ、リップマン博士は「スポーツドリンクは水分補給やカロリーの補充のおいてのみ意味があります」とコメントしています。

運動中に生じる低ナトリウム血症について、本研究の筆頭著者であるグラント・リップマン博士は、「脱水症よりも危険」と指摘。ほとんどのアスリートが心配する脱水症による死亡例はほとんど存在しない一方で、1985年以降に運動中の低ナトリウム血症による死亡報告は14件も上がっていると述べました。

リップマン博士が指摘する電解質サプリメントの問題とは、電解質サプリメントに含まれている電解質の濃度は、血液に含まれている電解質の濃度よりも低いということ。つまり、電解質サプリメントを摂取し続けると、血中の電解質濃度は低下してしまいます。そのため、「電解質が含まれているから、たくさん摂取しないと」と思ってスポーツドリンクをガブガブ飲むというのは結果的に逆効果になる可能性があります。リップマン博士は、「吐き気やめまい、疲労感があるのに喉が渇いていないという場合は、ナトリウム濃度が低すぎる可能性があります」とコメントしました。


さらに、普通レベルのジョギングやサイクリングでは過度に電解質について心配する必要はないとのこと。水分補給の専門家であるアリゾナ州立大学保健学部のスタブラス・カヴォラス教授は、高強度で運動したり、暑い中で長時間働いたりする場合だけ電解質について心配する必要があると説明し、スポーツドリンクなどで電解質を摂取する必要はなく、通常通りの食事で十分な量の電解質を補給できると述べました。

また、リップマン博士もスタヴロス教授も、アスリートのレベルでは、水分の過剰摂取はむしろパフォーマンスの低下を引き起こすという見解を示しました。そのためスタヴロス教授は「どれだけ水分を摂る必要があるかは自分自身で学ばないといけません」とコメントしています。


なお、今回の実験で、血中のナトリウムレベルに大きな影響を与えたのは「気温」だと考えられています。ナトリウムバランスを崩した被験者の88%(36人)は、「暑いレース」に参加していたことがわかっています。そのため、研究チームはナトリウムバランスが崩れるかを予測する最大の因子は気温だと述べています。

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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