機械学習は自動運転技術をどのように発展させているのか?
人間が運転操作を行わなくても車が自動で走行する自動運転はすでに実用化されており、各社が行動での安全性を高めるためにさらなる実証試験を行っている段階です。そんな自動運転技術に機械学習がどのように貢献してきたかについて、自動運転技術を開発しているVoyageの共同創立者兼CEOのオリバー・キャメロン氏が解説しています。
The Next Leap in Self-Driving: Prediction - Let Me Level 5 With You
https://olivercameron.substack.com/p/the-next-leap-in-self-driving-prediction
キャメロン氏によると、過去10年間にわたって自動運転技術の中でも「オブジェクト検出技術」が主に論じられてきたとのこと。オブジェクト検出技術とは、横断歩道や車道の脇を歩いている人などを検出する技術のことで、この技術の精度を高めることによって、車の目の前に飛び出した人などの検知率を上げることができます。
巨大写真データセット「ImageNet」を使ったオブジェクト検出能力測定試験の結果が以下。横軸は実施年度、縦軸はオブジェクト検出の精度です。機械学習が一般的になる以前の2010年頃は、当時の最先端技術でも50%の精度しか達成できませんでしたが、2020年頃の精度は88%にまで達しているとのことで、着実な進歩を遂げていることがわかります。
自動運転技術がまだ黎明期だった2012年、Alex Krizhevsky氏とIlya Sutskever氏、そしてGeoffrey Hinton氏による研究チームAlexNetがディープラーニング技術をオブジェクト検出に適用する(PDFファイル)研究を発表。AlexNetは当時の最高精度を達成し、自動運転業界に大きな影響を与えました。その結果、2014年頃には多くの自動運転技術がディープラーニングを活用するようになったとのこと。この傾向が、2020年に至るまで続いてきたというわけです。
以上のような発展の結果、自動運転技術は周囲の重要な物体を安全に検出できるようになったものの、今度はその周囲の物体が何をするかを予測する必要が残されているとキャメロン氏は主張。正しく予想を行えば周囲の人間・物体の移動を予測して適切に行動できますが、誤った予測を行うと事故を起こしてしまいます。「適切な予測」と聞くと一見不可能なようにも思えますが、「人間は周囲の状況から何千もの情報を取得して、直感的に予測を行っています」とキャメロン氏は説明しています。
現状の自動運転技術における予測問題の例として、キャメロン氏は「公道で右折する」という状況を挙げました。右折時には、対向車線の車や横断歩道の歩行者などの動きを予測してから右折を実行する必要があるため、「右折する」というシチュエーションは自動運転の中でも難問とのこと。キャメロン氏は現行の自動運転技術が右折を行うときは、以下のようなプロセスで稼働していると解説しました。
1:センサーなどの知覚モジュールで特定の距離内のオブジェクトを検出し、その情報を予測モジュールに入力。
2:予測モジュールは現時点と直前の観測結果から、各オブジェクトが現時点から5秒後までどのように移動するかについて予測を生成。
3:個々の移動予測を全てアルゴリズムに代入して、実行可能な「最も安全な行動」を算定。
4:「最も安全な行動」を実行に移しつつ、100ミリ秒ごとに決定を再評価。
キャメロン氏は、以上のようなプロセスで稼働する自動運転は危険な結果をもたらすだろうと述べ、特に混み合った市街地では最悪の状況を生みかねないと指摘。一方、近年では機械学習技術を予測にも適用するという動きが見られるそうで、キャメロン氏は「AlexNetが機械学習をオブジェクト検出に適用したのと不気味なほど似ている」「機械学習を予測にも適用することで、予測精度が大いに改善される可能性がある」とコメントしています。
自動運転技術に予測は必須ではないと述べつつも、機械学習技術を予測にまで適用することで、自動運転車の意思決定能力が劇的に改善し、乗客はスムーズかつ安全に移動できるようになるとキャメロン氏は説明。近日中にVoyageが行っている自動運転技術における予測に関する研究を発表する予定だとコメントしました。
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