「空気清浄機を教室に導入するとテストの点が上がる」は本当か?
by GEEK KAZU
「空気清浄機を導入した学校の生徒は成績が向上した」という驚きの研究結果が、2020年1月に発表されました。この研究の内容について、コロンビア大学応用統計センターに勤める統計学者のアンドリュー・ゲルマン教授が解説しています。
No, I don’t think that this study offers good evidence that installing air filters in classrooms has surprisingly large educational benefits. « Statistical Modeling, Causal Inference, and Social Science
https://statmodeling.stat.columbia.edu/2020/01/09/no-i-dont-think-that-this-study-offers-good-evidence-that-installing-air-filters-in-classrooms-has-surprisingly-large-educational-benefits/
2015年10月23日に、カリフォルニア州サンフェルナンド・バレーの天然ガス貯蔵施設でガス漏れが発生。この騒動をきっかけに、ガス漏れを起こした施設から5マイル(約8km)圏内にあるすべての学校の教室に空気清浄機が設置されました。
by GEEK KAZU
ニューヨーク大学の経済学教授であるマイケル・ギルレーン氏は、空気清浄機を設置した学校に通う生徒の成績推移を調査し、「Air Filters, Pollution and Student Achievement」という論文を2020年1月に発表。ギルレーン氏は論文の中で「非連続回帰デザインを使って、空気清浄機を導入した学校の生徒の成績データを分析したところ、達成度が大幅に向上しており、数学と英語の成績が上がった」と報告し、「空気清浄機の設置は、生徒の成績を上げるための非常に費用対効果の高い施策だ」と主張しています。
この論文内容を海外メディアのVoxが取り上げたことから、ギルレーン氏の発表内容は大きな話題となりました。
しかし、この論文に対して、ゲルマン教授は自身のブログで「論文のリンクをクリックしましたが、信じられません。大気汚染と脳がどう関係しているのかは全くわかりませんが、エアフィルターがテストの成績を大きく向上させたとはいえず、問題の研究が主張の根拠を提供しているとは思えません」と、異を唱えました。
以下は数学(上)と英語(下)の成績推移を表したグラフで、縦軸は成績の標準偏差の変化、横軸はガス漏れが発生した施設から学校までの距離を表しています。
しかし、ゲルマン教授は「グラフから直線や曲線を排除して、テストの点数と学校間のばらつきを見た場合、それほど驚くようなものはありません」と述べ、サンプルサイズが小さいためにこのデータ分析では十分な結論を導き出すことはできないと指摘しました。
また、非連続回帰デザインでデータを分析したことについて、「扱っている問題の文脈を考えるとあまりにも意味がありません」とゲルマン教授は述べ、「私の主張で重要な点は、『空気清浄機によって成績が向上したという結論が間違っている』ということではなく、『提示された分析がその主張を示す根拠となっていない』ということです」とコメントしています。
ゲルマン教授は、この論文を扱ったVoxの記事が誤解を招いていると語り、「ちょっとした研究で何の成果も得られないという結果が出ただけで、その研究をやめる理由にはなりません。ただし、その小さな研究を記事に使うのであれば、実際には成果が得られなかったことを書き示すべきです」と述べました。
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