サイエンス

生ゴミなどの廃棄物からプラスチックを作り出し商業的利益も上げるスタートアップが登場

by RitaE

イスラエルのUBQ Materialsというスタートアップは、残飯や紙、プラスチックなどを含むゴミの山からプラスチック原料を作り出す事業を手がけています。この事業は単に埋め立て地に送られるゴミを減らして環境を保護できるだけでなく、商業的な利益もしっかりと確保できているとのことで、アメリカの日刊紙ワシントン・ポストが経営者らに取材しています。

Israeli startup UBQ is turning trash into plastic products - Washington Post
https://www.washingtonpost.com/graphics/2019/climate-solutions/israeli-startup-ubq-turning-trash-into-plastic-products/

イスラエルの南部に位置するツェリムというキブツ(イスラエルの集産主義的協同組合)には、UBQが所有する小さな工場があります。工場の前には生ゴミ、プラスチック袋、汚れた紙、ボトルや容器、壊れたオモチャなどを含む数トンものゴミが山積みになっていますが、UBQは数時間でこれらのゴミを再利用可能なプラスチックペレットとして再生できるとのこと。

ゴミや使わなくなったものをそのまま再利用するのではなく、新しい素材やよりよい製品に変換して価値を高めることは「Upcycling(アップサイクリング)」と呼ばれています。世界中で発生するゴミの量は年間20億トンともいわれており、アップサイクリングはゴミが引き起こす環境問題の解決を模索する上で、非常に重要になってくるそうです。

しかし、大量のゴミを利用可能な素材に変換することは困難であり、多くの企業が挑戦しては撤退を余儀なくされてきました。しかし、UBQは生ゴミなどを含んだ廃棄物をプラスチック製品の原料に変換することに成功し、最終的には商業的な利益が得られる技術を生み出したと主張しています。UBQの最高経営責任者であるJack Bigio氏は、「私たちが行っている魔法は、鶏の骨、バナナの皮といった全てのゴミを変換します」と述べました。


選別されたプラスチックゴミだけを使ってプラスチック原料を作り出すのではなく、生ゴミや紙といった多様な廃棄物からプラスチック原料を生み出すUBQの試みは、埋め立て地に送られる家庭ゴミを減らすことにつながります。廃棄物から生活必需品の原料を作り出せれば地球環境に優しく、より持続可能な経済を実現できます。また、UBQがプラスチックペレットを1トン製造する場合と、同量のポリプロピレンを1トン製造する場合を比較すると、UBQの取り組みによって二酸化炭素排出量が15トンも削減できるとの試算もあるそうです。

一方で、UBQの技術については懐疑的な見方もありますが、多くの人々は実際にUBQのテクノロジーについて触れ、考えを改めているとのこと。国際固形廃棄物協会の会長を務める科学技術者のAntonis Mavropoulos氏も、当初はUBQの技術に納得していなかったものの、実際に工場を訪れて納得することができたそうです。「より持続可能な未来に進みたければ、新しい技術だけではなく、新しいビジネスモデルも必要です」とMavropoulos氏はコメントしました。

プラスチック関連のコンサルタントを手がけるPlastic Expert Groupの最高経営責任者であるDuane Priddy氏は、自社のメンバーと共にUBQの主張を一笑に付していたとのこと。しかし、実際にUBQの幹部と話をすることにより、多少は心境の変化があった模様。「私たちはまだ懐疑的ですが、UBQの製品を評価し、テクノロジーについて学び、幅広いアプリケーションを検証することを楽しみにしています」とPriddy氏は述べ、UBQのテクノロジーが地球環境に大きな変化をもたらすかもしれないと認めています。

by Porapak Apichodilok

過去にも生ゴミなどからプラスチックを作り出したケースはいくつか存在しますが、UBQ幹部は自社のテクノロジーについて公にしていません。UBQからの相談も受けたという、ヘブライ大学のバイオテクノロジー専門家であるOded Shoseyov教授によると、プラスチックと生ゴミなどの廃棄物を溶かすことにより、有機成分の繊維で強化された均質な物質が生成できるとのこと。

実際にUBQが行う作業では、まず廃棄物の山から靴やコーヒーマシンといった大きなゴミを取り除くことから始まります。次に鉄などの金属を自動化された設備で取り除き、残ったゴミを細かく砕き、さらにガラスや岩などのゴミが機械によって取り除かれます。この選別作業は、最終的に作り出す原料の強度や柔軟性、加工目的といった顧客の要望に応じて調整されるとのこと。複合レンガなどに使われる場合は選別作業も大ざっぱなもので問題ありませんが、金型を使った射出成形などが行われる場合、金型を傷つけないようにガラスや金属が丁寧に除去されるそうです。


Bigio氏は工場を訪れた人々に、「UBQでは無駄になるものはありません。選別過程で除去された金属やガラスもリサイクル業者に送られます。加工の過程で水も使わないため、環境の面で非常に効率的です」と述べています。

選別されて粉砕された数トンもの廃棄物は巨大な反応炉に入れられ、最大で400度に熱せられてUBQが開発した化学的・物理的処理を施されます。その結果、廃棄物は灰のような粉になるそうで、この粉をひも状に成形してから円筒状のプラスチックペレットに加工するとUBQは説明しています。プラスチックペレットはさまざまな製品として加工することができ、顧客の望んだ色に着色することも可能です。


UBQに多額の資金提供をしているのが、イスラエルの著名な実業家であるYehuda Pearl氏です。Pearl氏は食品企業のSabraに投資したことでも知られており、UBQでは2013年からパイロット施設を開設し、科学者や技術者らが数年にわたって技術の開発や収益性の確保をテストできる環境を整えたとのこと。

懐疑的な見方にも直面するUBQですが、すでにイスラエルのPlasgadというメーカー企業が2019年8月からUBQ製のペレットを用いて製品を製造しています。また、Pearl氏はUBQが多数の大企業とも先進的な協議を行っていることを明かし、今後もUBQが成長していくとみています。2017年末には中国が廃プラスチックの輸入を禁止し、世界のゴミ処理・リサイクル事情に大きな影響を与えました。こうした状況もあり、廃棄物を有効利用する事業の需要は高まっています。

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UBQによると、廃棄物から作られたプラスチック原料は6回以上もリサイクルすることが可能で、1~2回で劣化してリサイクルできなくなる通常のプラスチックよりも優れているとのこと。研究チームは引き続き、プラスチック原料の新たな応用方法と耐久性などの特性テストを行っているそうで、世界中から廃棄物を輸入してテストすることにより、さまざまなタイプの廃棄物でも機能するように改良を続けています。

記事作成時点でUBQが所有する工場では、1時間に約1トンのプラスチック原料を生産できるそうで、年間5000~7000トンの生産能力を持っています。Bigio氏によると、世界のプラスチック射出成形業界は3250億ドル(約35兆円)もの市場規模があるそうで、すでにUBQは年間生産量10万トンを達成できる新工場の建設計画を進めているとのこと。Pearl氏もUBQの事業が商業的に利益を生み出せると考えており、「私は成長して影響力を持つ可能性の芽を見つけました」と述べました。

by geralt

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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