「富の不平等は必然的に生じる」と数理モデルで証明可能
By anankkml
アメリカのタフツ大学経済学部のブルース・ボゴシアン教授が、経済そのものが持つ原理によって「貧富の差は必ず生じる」という事実や「現実の経済では何が起きているのか」という問題に関して、数理モデルを使ってわかりやすく解説しています。
Is Inequality Inevitable? - Scientific American
https://www.scientificamerican.com/article/is-inequality-inevitable/
何かを購入する際、運よくお得な値段で買えることもあれば、高値で買ってしまうこともあります。ボゴシアン教授の解説によると、「得」と「損」がある取引が無限回行われると、必ず富は1人に集中するとのこと。
By amenic181
ボゴシアン教授は、富が1人に集中することの証明に「ゲーム」を活用しています。例えば、コインの表が出たときには、「所持金が20%増える」、裏が出たときには「所持金が17%減る」というゲームをしたとします。所持金が100円だったとしてこのゲームを1回行ったときの期待値を求めると、以下のようになります。
20×½+(-17)×½=1.5
期待値は正の値となり、このゲームは「得」であるように思えます。しかし、もしこのゲームを10回プレイして、「表が5回・裏が5回」出たとします。ゲーム後の手持ちの金額は以下のようになります。
100×(1.2)5×(0.83)5=98.02
というわけで、実はこのゲームは「すればするほど損」です。このゲームを現実に近づけた思考実験が「ヤードセールモデル」という数理モデル。ヤードセールモデルでは、参加者はそれぞれ2人で1組を作って「取引」をしてもらいます。
By ollinka
この取引は、現実の売買における「お得な値段だった」「ちょっと高くついてしまった」という場合を模して、「どちらか一方が勝ち、もう一方が負ける」という設定になっています。勝った場合は、取引の参加者のうち「貧しい側の所持金の20%」を獲得し、負けた場合は「貧しい側の所持金の17%」を失います。例えば参加者A(所持金100円)と参加者B(所持金500円)が取引して、Aが負けてBが勝ったとします。この場合は、負けたAは、Aの所持金の17%である17円を失って、所持金は83円になります。一方勝ったBは、Aの所持金の20%を得て、所持金は520円になります。そして、取引が終わった参加者はまた別の参加者と取引を行って、無限に取引し続けます。
ボゴシアン教授によると、この「ヤードセールモデル」を続けた時、たった1人が全ての参加者の所持金を獲得し、他の参加者の所持金がゼロになるという「富の独占」が必ず生じるとのこと。この富の独占は、参加者の人数にも、それぞれの参加者の開始時の所持金にもよらず、必ず生じます。
現実世界では、参加者同士が取引を行う時に「勝ち負けが50%ずつ」ということはありえません。この実験結果を受けて、ボゴシアン教授は「自由経済市場は長く滞在すればするほど所持金を失うという連続性のあるゲームです。しかも、自由経済市場から離れることは不可能なのです」と語っています。
By liufuyu
さらに、ボゴシアン教授が所属する研究チームは、この「ヤードセールモデル」をさらに現実に近づけるために、3つの改良を行ったとのこと。その3つの改良が以下。
1.富の平均化:現実には富裕層に対する高額の課税と貧困層に対する補助金が存在するため、「取引」後にそれぞれの所持金を平均値に近づける。
2.情報格差:富裕層はローン金利の低下や財務アドバイスなどの経済的に優位な情報が得られるため、「取引」後に富裕層に対して有利になるようにバイアスをかける。
3.負債:住宅ローン、学生ローンなどの借金を考慮して、それぞれの参加者の所持金がマイナスになっても良いとする。ただし、無限に借金はできないので、所持金のマイナス値には限界を設定する。
以上の3つの改良を追加した上でヤードセールモデルを行ったところ、参加者の資産分布がかなり現実に即したものになったとのこと。ボゴシアン教授によると、3つの改良による補正値を適切に設定した場合には、この30年におけるアメリカの資産分布を誤差0.2%以下で表せるようになったそうです。
By Alexlukin
数理モデルを使った実験結果から、ボゴシアン教授は「自由市場経済における富の『自然な』分布は、『完全な独占』」だと語っています。それゆえ、重要になるのは「富の再分配」とのこと。「慎重に設計された再配分のメカニズムを設定することで、富が貧困者から富裕層に流れるという『自然な』流れを補正することができます」とボゴシアン教授は述べました。
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