Microsoftが映画「スーパーマン」を手のひらサイズのガラス板にアーカイブすることに成功

Microsoftは、映画配給会社のワーナーブラザーズと協力して、1978年に公開された映画「スーパーマン」のデータを小さなガラス板に保存することに成功したと発表しました。レーザーとAIを駆使してデータを石英ガラスに保存する「Project Silica」の一環として行われたもので、より耐久性の高いアーカイブ法として期待されています。

Project Silica proof of concept stores Warner Bros. ‘Superman’ movie on quartz glass
https://news.microsoft.com/innovation-stories/ignite-project-silica-superman/

Microsoft successfully archives Warner Bros. 'Superman' movie on a piece of glass - TechSpot
https://www.techspot.com/news/82624-microsoft-successfully-archives-warner-bros-uperman-movie-piece.html

Project Silicaは、2023年までに100ゼタバイトを超えるデータをクラウドに保存することを目指し、ストレージシステムの構築と技術を根本的に再考するというMicrosoftのプロジェクトです。

本や従来の光学メディアは浸水や火災によって激しい損傷を受けてしまい、貴重な歴史的記録が失われてしまう恐れがあります。また、クラウドサービスで使われているハードディスクは3年～5年、磁気テープは5年～7年で消耗してしまうため、定期的に交換する必要があり、維持コストは膨大なものとなります。

Project Silicaで研究されている保存技術は、硬質の石英ガラス内部にフェムト秒レーザーがさまざまな深さと角度でナノスケールの立体格子の層を作成することで、ガラスにデータをエンコードするというもの。そして、偏光をガラスに透過させて作成される影像とパターンをAIによってデコードすることで、データを読み取ることができるそうです。

アーカイブ媒体はガラスでできているため、熱や水にも強く、強い磁力で失われてしまうこともありません。また、ガラスにデータを書き込むのは一瞬であり、劣化することもないため、クラウドサービスの低コスト化にもつながるとMicrosoftは主張しています。

ワーナーブラザーズでは、映画のフィルムをシアン・マゼンタ・イエローの3原色に分離してネガフィルムに焼き増し、さらにそのネガフィルムを巨大な冷蔵庫のような保管庫で保存します。しかし、この方法は非常にコストがかかる上に、このプロセスが可能なフィルムラボは世界にほんの一握りしかありません。そのため、ワーナーブラザーズはProject Silicaの採用を検討しているとのこと。

そこで、Project Silicaの概念実証実験として、Microsoftはファイルサイズが75.6GBもあるスーパーマンのフィルムデータを、75mm×75mm×2mmという手のひらサイズの石英ガラス板に保存。そして、ガラス板のストレージからスーパーマンのフィルムデータを再度読み込むことに成功したそうです。

スーパーマンのフィルムデータを収めたガラス板と保管庫に保存されているスーパーマンの3種類のフィルム

また、Microsoftはガラス板をスチールウールで焼いたり、熱湯で煮込んだり、電子レンジにかけたり、水に浸したり、強い磁石を押し当てたり、研磨したりするといった耐久試験を行ったそうですが、データは一切損失していなかったとのこと。

Microsoft Researchの副所長であるアント・ロウズトロン氏は「私たちは家に置いたり、映像を再生したりするものを作ろうとはしていません。クラウド規模で動作するストレージの構築のためにProject Silicaを推し進めています」と述べ、Project Silicaで開発されているガラスストレージ技術はあくまでも産業向けの技術であり、家庭用に普及させるものではないことを強調しています。