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日本の電子部品産業はなぜ衰退してしまったのか?

By grafvision

日本における電子部品の輸出は、世界金融危機が発生した2007年頃から価値が急落し、2019年に至るまで回復の見込みがありません。日本がどのようにして電子部品産業における優位性を失っていったのかを、経済産業研究所の上席研究員であるウィレム・トルベッケ氏が分析しています。

Why Japan lost its comparative advantage in producing electronic parts and components | VOX, CEPR Policy Portal
https://voxeu.org/article/why-japan-lost-its-comparative-advantage-producing-electronic-parts-and-components

トルベッケ氏は経験過程を取り入れ、製品と部品ごとの貿易を区別し、製造場所の移り変わりによるコストの変化を考慮した方法で、日本、韓国、台湾の輸出生産価格を測定した結果を以下のグラフに表しました。グラフを参照すると、世界金融危機後の2008年頃を境に価値が下落しています。一方で韓国と台湾のグラフは2009年頃から急上昇しており、2017年には台湾と韓国がそれぞれ日本の倍以上の値を示しています。生産コストは日本の企業物価指数に基づき測定されています。


韓国・台湾との競合において日本企業は価格決定力が低く、世界金融危機によって安価な製品を生み出す国への資本流入が進み、2007年頃から円高不況に直面した日本の電子部品輸出額は円の相対的価値と比較して35%も低下しているとトルベッケ氏は述べています。

以下の図は円/ドル為替レートと、企業物価指数および輸出物価指数をグラフ化したもの。このグラフから、2007年6月から2012年9月までの輸出価格の下落の大部分は円高によるものである、とトルベッケ氏は推測しています。


一方で、日本の主要輸入国への輸出の価格弾力性を考慮すると、輸出価格の10%が増加することで電子部品の輸出が2.1%から2.7%減少します。このことから、日本の電子部品の輸出における優位性の喪失は、単に円高だけの影響に起因するものではないとトルベッケ氏は述べています。

円高による輸出利益の低下は、電子部品メーカーの収益に大きな影響を与えました。金融恐慌後の円高と新台湾ドル安により半導体メーカーの株価は下落し、収益の低下が日本の部品メーカーに大きな損害を与えました。しかし2012年頃から円安と新台湾ドル高に転じたにも関わらず、日本の電子部品メーカーは韓国や台湾に並ぶ競争力を取り戻すことはできませんでした。


電子部品の輸出における競争力を維持するには資本と研究開発への投資が必要であるという説がありますが、トルベッケ氏の調査では世界金融恐慌の後、日本の電子部品企業による有形固定資産への投資は減少傾向になり、2019年になっても回復しませんでした。円高によりヒステリシス効果が引き起こされ、業界の長期的な低下を引き起こしたとトルベッケ氏は推測しています。

対照的に、台湾と韓国の電子部品を製造する企業は収益性が向上しました。以下の図を見ると台湾と韓国の半導体製造業の株価が高騰したのに対し、2019年における日本の半導体製造業の株価は2005年時点の値を下回っています。


半導体製造業者が不振である一方で、半導体などのコモディティ化した製品を扱わない日本の電子部品企業は好調に推移しており、トルベッケ氏は例として多層セラミックコンデンサなどを製造する村田製作所を挙げています。村田製作所は、積層セラミックコンデンサの製造に焦点を当て、低価格帯の電子部品の製造は台湾企業に一任することで業績を上げています。

村田製作所は積層セラミックコンデンサを始めとする、市場シェアを独占するハイエンド製品を生産しています。台湾企業はローエンド製品を製造しているため、村田製作所と台湾企業の間で価格競争が起きることはなく、円および新台湾ドル価格の変動による影響は受けにくいとトルベッケ氏は述べています。

韓国ウォン安による影響は、村田製作所の株のリターンを増加させるとトルベッケ氏は分析しています。これは国のREERの増加が貿易競争力の損失を招くという理論が反映されています。韓国の部品メーカーは、日本の部品メーカーとローエンド製品生産者の間を補う相互補完のような関係にあり、韓国の製品輸出の需要を増加させるウォン安は、韓国製品を輸入する日本の部品需要を増加させる可能性があるとしています。

日本の電子部品企業の衰退から得られた教訓として、まず企業が景気後退に備えて好景気時に貯蓄をしておき、不況時のヒステリシス効果を改善する策をあらかじめ練っておくことが挙げられます。また、コモディティ化された製品で競争するのではなく、日本企業特有の職人技を生かした利益率が大きいハイエンド製品に特化する必要があるとトルベッケ氏は語ります。トルベッケ氏は例として、村田製作所が製造するセラミックフィルターやソニーが製造するイメージセンサーのような市場支配力のある製品を挙げています。

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in ハードウェア, Posted by darkhorse_log

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