匂いを分子構造から嗅ぎ分けて予測するAIをGoogleが開発
by dimitrisvetsikas1969
古代ギリシャの碑文を解読したり、赤ちゃんの泣き声を聞き分けたり、液体の味を判別したりと、人工知能(AI)の進歩によって人間の感覚はデジタル化されつつあります。Googleは、匂いのもととなる分子の構造を解析することで匂いを予測するAIを開発したと発表しました。
Machine Learning for Scent: Learning Generalizable Perceptual Representations of Small Molecules
(PDFファイル)https://arxiv.org/pdf/1910.10685.pdf
Google AI Blog: Learning to Smell: Using Deep Learning to Predict the Olfactory Properties of Molecules
https://ai.googleblog.com/2019/10/learning-to-smell-using-deep-learning.html
人間の嗅覚は、鼻孔内の粘膜上にあるおよそ400種類の嗅覚受容体がセンサーとなって認知されます。嗅覚受容体は特定の分子構造と結合すると活性化し、嗅覚ニューロン(OSN)が発火します。発火したOSNは脳にある嗅球という組織に信号を送り、これを受け取った嗅球が脳のさまざまな部位に信号を送信することで、嗅覚の情報が処理されるという仕組みになっています。
そこで、たとえ嗅覚そのものは再現できなくても、匂いの元となる匂い分子を検出することさえできれば、AIでも匂いを嗅ぎ分けることができるようになるとGoogleの研究チームは考えました。
匂いをAIで学習するには「匂い分子の種類」と「どんな匂いがするか」をタグ付けすることが重要。Googleの研究チームは、調香師によって識別されたおよそ5000種類の分子で構成されたデータセットを作成し、それぞれの分子を匂いの記述子でラベリングしました。例えば、バニラから抽出されるバニリンという物質は、まさにバニラアイスのような甘い匂いの元であることで知られていて、「甘い」「バニラ」「クリーミー」「チョコレート」といった匂いの記述子とセットになっているとのこと。
AIはグラフニューラルネットワーク(GNN)を利用し、匂い分子の構造を原子レベルで判別して特定します。具体的には分子内の炭素や水素の数やつながりを多層解析し、匂い分子の構造を特定するそうです。そして、データセットのおよそ3分の2を使ってGNNをトレーニングすることで、AIが分子構造に基づいてその分子の匂いを予測することができるようになりました。
ただし、匂いの科学については未解明な部分も数多く存在します。たとえば、かんきつ系の匂い成分であるD-リモネンと、ハッカやスペアミントの匂い成分であるL-リモネンは面対称な分子構造を持つ光学異性体であり、匂いがまったく異なるにもかかわらず、その構造は非常によく似ています。人間の嗅覚がD-リモネンとL-リモネンのような光学異性体をどうやって嗅ぎ分けているのか、そのメカニズムはまだよくわかっていません。AIが光学異性体の匂い分子を高い精度で判別できるようになるためにはさらなる訓練が必要だと、研究チームは述べています。
by Wikimedia Commons
Googleの研究チームは、AIで匂いを嗅ぎ分ける研究には「安価に生産できる新しい匂い分子の設計」「匂いのデジタル化」「嗅覚を失った人がいつの日かバラの香りや腐った卵の匂いを感じられる機会を作る」など、将来の可能性が数多くあると述べ、「最終的に高品質でオープンなデータセットを共有することで、機械学習の世界から匂いに関する問題に注目を集めたい」とコメントしました。
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