サイエンス

「音楽は世界共通の言葉」という通説が間違っていた可能性


音楽は文化や言語の違いを超えて親しまれることからよく「音楽は世界共通の言葉」だといわれています。しかし、アマゾン奥地の先住民の音の聞こえ方を調べた研究により、音楽の聞こえ方にも文化の影響が確かに存在する可能性が示されました。

Universal and Non-universal Features of Musical Pitch Perception Revealed by Singing: Current Biology
https://www.cell.com/current-biology/fulltext/S0960-9822(19)31036-X

Perception of musical pitch varies across cultures | Cosmos
https://cosmosmagazine.com/biology/perception-of-musical-pitch-varies-across-cultures

南米に位置するボリビアの熱帯雨林に住むチマネ族は、西洋文化とは隔絶された自給自足の生活を貫いていることから、これまで生活習慣と健康の関係を調べる研究などにより注目を集めてきました。


そんな中、マサチューセッツ工科大学で認知科学について研究しているジョッシュ・マクダーモット氏は、チマネ族とアメリカ人を対象に「シンセサイザーで合成した音を声で再現してもらう実験」を実施。チマネ族とアメリカ人の音楽的な感性には、文化を背景にした違いと、生物学的な共通点に根差した普遍性の両方が存在することを突き止めました。

マクダーモット氏らはまず、アメリカ人を対象に異なる音域で発せられた2つの音を聞かせてから、それを声で再現してもらう実験を行いました。すると、アメリカ人の対象者は、2つの音がオクターブ単位で正確にずらした音ではなかったにもかかわらず、オクターブごとにずらした音を声で再現する傾向にあったとのこと。この傾向は、一般のアメリカ人よりも、音楽の訓練を経験したミュージシャンの場合でより顕著でした。


研究グループは、この結果にはオクターブの等価性が関係しているとみています。オクターブの等価性とは、「別の音であっても、オクターブの整数倍の音程だけ離れていれば同じ音として知覚される」という現象のこと。これは、裏を返せば「同じ音に聞こえる2つの音はオクターブの整数倍の音程だけ離れた音である」ということなので、経験豊かなミュージシャンほどオクターブの差を意識してしまうのだと推測されます。

チマネ族に同様の実験を行ったところ、特にオクターブにこだわることなく音の響きを重視した再現を行ったとのことです。この結果からマクダーモット氏は「オクターブの等価性は文化的背景によるものであり、オクターブを基本単位とした西洋音楽に触れていない人には無関係なようです」と述べています。


一方、マクダーモット氏は文化を超えた共通性も発見しています。大半の西洋人は音が約4000Hz以上になると音の違いがほとんど分からなくなることが知られており、これは「ピアノなど西洋音楽で使われる楽器のほとんどが約4000Hzを高音の上限としてきたからだ」とされてきました。


しかし、チマネ族が使う楽器の音の上限は4000Hzよりもかなり低いものが多いにもかかわらず、チマネ族も西洋人と同様に約4000Hzまでは正確に聞き取れた一方で、それ以上になると音の違いが分からなくなってしまったとのこと。


この結果についてマクダーモット氏は「音が4000Hzを超えると、脳のニューロンの反応性が低下し、音の違いを判別することが困難になるのではないでしょうか」との推論を述べて、人間の音感の限界は文化ではなく生物学的な制限に起因したものだとの見方を示しました。

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in サイエンス,   アート, Posted by log1l_ks

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