ソフトウェア

IT産業はタダ働きのエンジニアに依存しすぎている

By Pressmaster

「フリーソフトウェア」「無料アプリ」の中には便利なものがたくさんあります。しかし、有料のソフトウェアの中にも「無料のコード」が多数内在しています。さまざまなプロトコルを用いてデータを転送するライブラリ「libcurl」とファイルを送受信用コマンドラインツール「cURL」を開発し無料で提供しているダニエル・ステンバーグさんが「オープンソースプロジェクトを公開すること」にまつわる自身のエピソードを語っています。

The Internet Relies on People Working for Free - OneZero
https://onezero.medium.com/the-internet-relies-on-people-working-for-free-a79104a68bcc

iPhoneのような多数のコードによって動いている製品の価格には、そのコードを書いた人に対する報酬が含まれているように一見思えます。しかし、iPhoneのような最新テクノロジーを多数搭載した機器ですら、GitHubやGitLabのような「オープンソースプロジェクト」で公開されている「無料のコード」を多数含んでいます。


たいていの場合、そういったオープンソースのコードの開発者は自身の著作物が無料で利用されていることをよしとしています。オープンソースのソフトウェアを提供することは自身のスキルを磨く機会になるということや、コミュニティからの支援を受けやすいというのがその理由。多数のオープンソースプロジェクトを管理しているGoogleは、「オープンソースは万人にとって良いことだと信じています。誰でも自由に使用可能だということは、コラボレーションを促進し、テクノロジーを発展させ、現実世界の問題を解決してくれます」と述べています。

Google Open Source – opensource.google.com
https://opensource.google.com/


しかし、何百万人もの人間が使用するようなソフトウェアが数人のボランティア、あるいはたった1人の開発者の「無料のコード」に依存している場合、大惨事が起こる危険性も存在します。2014年にはウェブサイトの66%が利用しているというオープンソースのライブラリ「OpenSSL」に、メモリを読み取って機密情報が可能になる「ハートブリード」という脆弱性が見つかっています。OpenSSLを開発を担当する常勤のプログラマーはたった1人だったとのこと

ネット上のサイトの約66%が使用するOpenSSLに重大なバグが発見される - GIGAZINE


こういった脆弱性に関する問題だけではなく、開発者がプロジェクトを放棄してしまうケースや、意図的に脆弱性が仕込まれる可能性もあり得るわけです。

ダニエル・ステンバーグさんは、オープンソースプロジェクト「cURL」を創始した人物です。ステンバーグさんによると、cURLは数十億台以上のスマートフォン・数億台以上のテレビ・1億台以上のスマートカーに搭載されており、今までに生産された全てのiPhoneがcURLを含んでいるとのこと。しかし、それほどまでに広範に使用されているcURLですが、開発者がステンバーグさんであることを認識している企業はほとんど存在せず、cURLのホスティングなど諸費用を支払ってくれているスポンサーに大企業の名はありません。

2018年、cURLの問題により数百万台のデバイスに影響が出るという事件が発生。スウェーデンに住むステンバーグさんの元に、パニックになった海外のメーカーから「すぐに修正に取りかかるために、こちらの国に来て欲しい」と連絡が来たとのこと。ステンバーグさんは仕事の余暇にcURLを開発し、その成果をオープンソースとして公開しているだけの人物でしたが、ステンバーグさんはその要望に応えて海外に出張することを決意します。しかし、ステンバーグさんが問題を解決するための「海外への出張費用」を請求したところ、その会社は支払いを拒否。結局、ステンバーグさんは友人に助けを求めることとなり、その友人が問題を解決したそうです。

By yousef alfuhigi

ステンバーグさんは「オープンソースのプロジェクトから多大な利益を得ているのにも関わらず、その利益をプロジェクト自体に還元するのではなく、無料であることにつけ込んでいる人を見ると腹が立ちます」と語っています。こういった経験から、ステンバーグさんは「トラブル時に備えるために、企業は開発者に金銭を支払ってサポート契約を結ぶべきだ」と主張するようになりました。

現実には、無料でコードを書いている人々は霞を食べて生きているわけではないので生活費が必要であり、家族を養わなければならないという人もいます。しかし、一方で、今回のニュースを報じているテクノロジー系ニュースメディアOneZeroによると、オープンソースコミュニティの多くは無料という信念にこだわった結果、「何らかの形で金銭を受け取る」という考えに反対しているとのこと。

ステンバーグさんは、他の開発者や企業から「助けてくれ」というメールを受け取ったとき、「きっと多分もうすぐ、『サポート契約を結ぼう』という気になってくれるだろう」と考えるようになったとのこと。ステンバーグさんは「20年以上もcURLに身をささげており、cURLを放棄するということは考えていない」と語っていますが、「cURLを放棄しないというのは、『お金を稼げているうちは』という条件つきです」と付け加えています。

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in ソフトウェア, Posted by darkhorse_log

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