VR技術により出産の痛みを和らげる研究が進んでいる
by Suhyeon Choi
出産に伴う痛みは例えようがないほどすさまじいものですが、痛みを抑えるための麻酔や鎮痛剤の使用を避けたがる人もいます。そこで、麻酔を使わずに出産の痛みを少しでも和らげる手段として、ヘッドセットを用いたバーチャルリアリティ(VR)を活用することが研究されています。
‘It Was Surreal’: Women Turn to VR Technology to Get Through Pain of Childbirth | KTLA
https://ktla.com/2019/09/08/it-was-surreal-more-women-turn-to-vr-technology-to-get-through-childbirth/
治療としてのVRの活用は、先端恐怖症や高所恐怖症といった恐怖症の克服や、PTSDのようなトラウマ障害を乗り越える手段として、精神医療の分野では長らく注目されていました。
ニューヨーク州ニューハンプトン出身のエリン・マルトゥッチさんは、2016年11月に2番目の子どもを出産する際、夫に勧められ懐疑的ながらもヘッドセットを装着して横たわりました。このとき、VR映像として視界にはビーチが広がり、呼吸をいざなう穏やかな声がガイドがあったとのこと。結果として、出産している状況を忘れるほどではありませんでしたが、VRの景色と音声によってマルトゥッチさんは痛みから注意をそらすことができたそうです。それから3年後となる2019年10月に3人目の子どもを出産予定のマルトゥッチさんは、VRを再び使用したいと話しているとのこと。
VRによる痛みの緩和を推奨する医師の一人であるジョナサン・カース氏は、鎮痛剤を用いない非医療的選択肢を見つけようとする傾向がアメリカの医療現場で人気になると予想しています。というのも、鎮痛剤としてこれまで広く使われてきたオピオイドは、過剰摂取により膨大な死者を出していることが社会問題となっており、オピオイドを使わない代替手段に注目が集まると考えられるためです。
また、VRに興味を持つテクノロジーに精通する層はちょうど子どもを持つこともある年齢層であることからも、VRは抵抗なく受け入れられると考えられています。
一方で、VRで痛みを緩和できるという研究は2017年に論文も公開されているものの、「なぜ痛みの緩和が導かれたか」ということははっきりとしていないとのこと。研究者は「メディアは注意を散漫にさせることで痛みが緩和される」と考える傾向にあるそうですが、この論文で実験されているのは注射のような一時的な痛みであるため、出産のように長く続く痛みをどのように緩和できるかを明らかにすべく、新たな研究が進められています。
VRヘッドセットはキャンプファイヤーのある荒野やイルカが泳ぐ水中に装着者を連れ出し、出産中の女性をリラックスさせ痛みから意識をそらす効果が見込まれていますが、一方でVRは激しい動きを伴う映像ではなくても酔いを引き起こすことがあり、それが出産中の体調と相まってより気分を悪くする可能性も語られています。
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