サイエンス

VRがさまざまな恐怖症を克服するための治療法として役立つ可能性

by Billetto Editorial

特定のあるものに対して異常な恐怖を感じるのが「恐怖症」で、高所恐怖症先端恐怖症といった比較的よく耳にするものから、対人恐怖症動物恐怖症のような生物に対して抱くものまでさまざまな種類が存在します。そんな恐怖症の一種である「クモ恐怖症」の女性が、VRを用いた治療を受けることで恐怖症を克服することに成功しており、VRがさまざまな恐怖症に打ち勝つための有効な手段になるのではと注目を集めています。

Journal of Anxiety Disorders - Elsevier
https://www.journals.elsevier.com/journal-of-anxiety-disorders

VR Therapy Makes Arachnophobes Braver Around Real Spiders - IEEE Spectrum
https://spectrum.ieee.org/the-human-os/biomedical/devices/spider-video-therapy

通常、恐怖症の克服には行動療法の一種である「暴露療法」が用いられます。暴露療法では患者を恐怖の対象に直面させることとなるわけですが、例えば飛行機恐怖症や大型動物に関する恐怖症などの場合、暴露療法を用いることは難しいという欠点がありました。

そのため、近年新しいタイプの暴露療法として「CGとVRを用いた手法」が注目を集めています。患者は仮想空間の中で安全に恐怖の対象と対峙することができるようになり、通常の暴露療法では実現するのがなかなか難しいシチュエーションであっても、簡単に再現可能です。

VRを用いた暴露療法を用いて、クモ恐怖症の女性がクモを克服するという実験をテキサス大学オースティン校の研究チームが行っています。実験では女性がVRヘッドセットを着用し、イスに座ったままの状態で「手の上をタランチュラが歩き、時間と共に徐々に顔に向かって忍び寄ってくる」という約5分間の3D映像を視聴します。実験ではこの映像を6度も視聴するわけですが、本物のタランチュラを使用しているわけではないので、被験者は安全かつ繰り返し自身の恐れるものに晒されることが可能となります。


実験ではクモが怖いという大学生を77人集め、VRと実写の3D映像を用いて恐怖症の克服に挑戦しています。被験者たちはVRでタランチュラの映像を30分間見ると、本物のクモに直面しても以前のような恐怖を示さなくなったそうです。なお、実験後に被験者に対面してもらったのは「チリアンコモンタランチュラ」というクモの中でも比較的大きなサイズのタランチュラです。

実験を考案したのはコロンビア大学の大学院生であるショーン・ミンズ氏で、「実験中、被験者が身体的にどれほど不快であったかがわかりました。タランチュラが近づくにつれ、多くの人が後ずさりしましたから」と、実験時の被験者の様子について語っています。しかし、こういった反応は好ましいものだそうで、なぜならVRで疑似体験しているものを現実の体験であるかのように反応している証拠だからだそうです。

実験で使用する3D映像は、CGで作成するのではなくステレオスコピック3Dデュアルカメラを用いて実際に撮影されました。撮影に使用されたのは、目の間の自然な距離を模した2台のカメラで同時に映像を撮影するというもので、より現実の映像を見ているかのようなリアルさを表現できるようにと採用されました。この映像をOculus Riftで再生することで、被験者は映像に奥行きまで感じたそうです。


VRを用いた暴露療法がうまくいったかどうか調べるため、研究者たちは治療実験の前後に「被験者がどれくらいクモを恐れているか」をテストするため、生きたチリアンコモンタランチュラを使用しています。透明なケースの中に入れたチリアンコモンタランチュラを用意し、被験者がクモに対してどの程度の恐怖心を抱いているかを測るための14個の異なるステップを作成。「14個の異なるステップ」というのは、被験者に「ケースの中に両手を入れる」や「手のひらにタランチュラをのせてケースから出す」などのタスクを行ってもらうことで、最も高度なタスクは「15秒間タランチュラを握る」というものでした。

治療前の被験者の平均レベルは「7」だったそうで、これは「片手をタランチュラの入ったケースの途中まで入れる」というものでした。しかし、VRを用いた暴露療法を体験すると、被験者の平均レベルは「10.5」まで上昇したそうで、「タランチュラの入ったケースの中に手のひらを置く」というタスクまでこなせるようになったとのこと。「それほど大きな改善がみられたわけではない」と感じる人もいるかもしれませんが、ミンズ氏は「この改善は臨床的にとても重要である」と語っています。


この研究は恐怖症と診断された人に対して行われたものではなく、あくまでも「クモが怖い」と感じている人々を対象としたという点で制限があります。また、カメラで撮影した3D映像を使用した例であり、3D映像とCGで作成された3DCG映像ではどの程度効果に違いが出るかについては調査していません。

研究に参加したテキサス大学オースティン校の学生であるエミリー・カール氏は、「コンピューターで生成されたバーチャルリアリティは、通常の暴露療法と同じくらい効果的であるという証拠があります。しかし、CG映像は『あまり現実的ではなく、気を散らす』というリスクもはらんでいます」と語っています。これがどういうことかというと、ロボットを人間に似せた造形にすると、ある一定のラインを超えると人間の感情的反応が極端に下がる「不気味の谷現象」が、VRを用いた暴露療法でも起こり得るとのこと。カール氏は、「例えば、社交不安障害を克服するために、CGで作られた人が多くいる部屋の映像を作ったとします。CGで作られた人がそれほど人間的ではなかったとしても、彼らが親密であるなら、患者はそれに集中するようになるかもしれません。そういった状態は、必ずしも治療法として有効とはいえない状態で患者をだましているということになる」と語っており、CGだけで作った3D映像では暴露療法の効果を十分に発揮できないケースもあると考えているようです。

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in ソフトウェア,   ハードウェア,   サイエンス,   ゲーム, Posted by logu_ii

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