左利きの原因となる遺伝子変異が特定される

by Obama White House

生まれつき左手を反射的に使う「左利き」の人は、矯正されてしまうこともあってばらつきはあるものの、全人口のおおむね10～30％ほど存在しているといわれています。左利きの人が生まれる理由ははっきりしていませんが、ある研究によると、利き手は遺伝するという仮説が唱えられています。そんな中、オックスフォード大学の研究チームが、左利きに関連する遺伝子変異の位置を特定したと発表しました。

Handedness, language areas and neuropsychiatric diseases: insights from brain imaging and genetics | Brain | Oxford Academic
https://academic.oup.com/brain/advance-article/doi/10.1093/brain/awz257/5556832

Genome Regions Associated With Left-handedness Identified For the First Time | Technology Networks
https://www.technologynetworks.com/genomics/news/genome-regions-associated-with-left-handedness-identified-for-the-first-time-323619

旧石器時代から左利きの人も存在していたことは石器の形状や壁画の描かれ方から示されています。しかし、右利きに矯正するべきという考えも昔からあったようで、京都国立博物館の解説によると、アフリカや南アジアには、左手を熱湯に入れたり縛ったりすることで左利きを右利きに矯正しようとする民族がいたとのこと。また、17世紀には「悪魔は左手を使って洗礼を行う」と信じられていたため、左利きは悪魔の崇拝者だと見なされたこともあったそうです。

犯罪人類学の創始者で「犯罪学の父」とも呼ばれる19世紀イタリアの精神科医チェーザレ・ロンブローゾは、犯罪者は先天的な性質によって犯罪に手を染めやすいという生来的犯罪人説を唱え、その中で「左利きは左脳よりも右脳を好んで使い、生来的に犯罪に及ぶ傾向がある」と主張しました。こうした主張によって左利きを矯正しようとする動きが社会全体に広がっていったとみられています。なお、ロンブローゾの生来的犯罪人説は現代科学の見地からほぼ否定されています。

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オックスフォード大学の研究者は、UKバイオバンクに登録されているおよそ40万人のゲノムを分析。このサンプルの中には左利きの人が3万8332人含まれていたとのこと。この情報を元にゲノムワイド関連解析を行ったところ、rs199512、rs45608532、rs13017199、rs3094128という4つの一塩基多型(SNP)が左利きに関連すると判明しました。

人間の遺伝子はいわばタンパク質の設計図であり、デオキシリボ核酸(DNA)を構成するアデニン・チミン・グアニン・シトシンという4種類のヌクレオチドの配列によって暗号化されています。SNPとは暗号のごく一部でみられる配列の変異であり、個人の多様性を生む一因でもあります。

特定されたSNPのうち、rs199512は脳の発達と神経細胞の軸索誘導に関連するタンパク質を発現する遺伝子に位置していたとのこと。研究チームは、UKバイオバンクに登録している人の脳スキャン画像と結びつけて、これらのSNPによって「脳内組織である白質の構造で、細胞骨格の段階から違いが生まれ、利き手が左になるのではないか」と主張しています。

by yosshi

また、研究チームによると、左利きの被験者は脳の左右にある言語領域がよりスムーズに信号をやりとりしていることがわかったそうです。ただし、「このことは、左利きの人が言語のタスクを実行することに関して有利であるかもしれないという将来の研究の興味深い可能性を提起するものですが、この違いはあくまでも多数の人の中で平均的に見られるものであり、左利きの人の言語能力が必ず優れているというわけではありません」と研究チームは述べました。

さらに、左利きと統合失調症やパーキンソン病の間に統計的に有意な正の相関関係があったとのことですが、いずれも理論的な裏付けはないため、研究チームは今後の研究の課題としています。

オックスフォード大学で脳機能イメージングを研究するグエネル・ドゥオー教授は「利き手に関連して脳内の細胞骨格の違いが人間で初めて示されました。この違いが遺伝子を編集することで生まれることは、カタツムリやカエルなどでは判明していました」と話しています。実際に、2019年5月には遺伝子編集技術であるCRISPRによってカタツムリの貝を左巻きに変異させることに成功したと日本人の研究者が発表しています。

1万匹に1匹しか存在しない幻の「左巻きのカタツムリ」が遺伝子編集技術CRISPRで誕生 - GIGAZINE

論文の共著者であるオックスフォード大学のドミニク・ファーニス教授は「歴史を通じて、左利きの人は不運であり、悪意があるとさえ考えられてきました。この研究で私たちは、左利きが脳の発生生物学の結果であり、その一部が多くの遺伝子の複雑な相互作用によって駆動されることを示しました。それは私たちを人間たらしめている多様的なタペストリーの一部なのです」と語りました。