病院を「あるもの」で満たすと患者の不安・ストレス・痛みを圧倒的に和らげることができる

by Vidal Balielo Jr.

病院はこれから行う診療や治療に対しての不安がつのり、周囲の家族に悲報が届いた様子を目にするなど、ネガティブな感情がかき立てられやすい環境です。イギリスのチェルシー・アンド・ウェストミンスター病院は病院での不安やストレスを和らげるためにアートを使うプロジェクトを行っており、実際に「入院期間が短くなる」「苦痛が和らぐ」といった効果が報告されています。

'THE HEALING ARTS' – CELEBRATING THE IMPACT OF ART AND DESIGN ON PATIENTS AT CHELSEA AND WESTMINSTER HOSPITAL - CW+
https://www.cwplus.org.uk/news/2019/06/27/the-healing-arts/

Filling hospitals with art reduces patient stress, anxiety and pain
https://www.designweek.co.uk/issues/22-28-july-2019/chelsea-westminster-hospital-arts-research/

「The Healing Arts」と呼ばれるプロジェクトは、患者と医師のためのアート治療プロジェクトを実施するロンドンの慈善団体「CW+」によって実施されたもの。調査の結果、子宮頸がん検査法の1つであるコルポスコピーを受けている女性50人のうち5分の4以上が視覚的なアートの存在によって「施術への不安が軽減され、施術が楽になった」と語ったとのこと。病院の女性外来には自然や野生動物、町並みなどを映す映像が流されており、これらが「不快な施術を受ける女性の気晴らしとなった」と病院はみています。

また、小児の緊急病棟で働く19人の医師のうち16人が、動物園をテーマとしたアートが子どもたちの不安を和らげたとコメントしており、19人中15人は、アートが医師自身のつらさを和らげたとも述べました。

CW+はこれまでも同様のプロジェクトを行っており、2004年にはアートや音楽が「出産中の女性」「コルポスコピーや他の外科手術を受ける女性」といった特定の患者に対してポジティブな影響を与えることが示されていました。先行する調査では、「アートが存在する場合、女性の出産時間は2時間も短くなること」そして「コルポスコピーを受けている女性はストレスホルモンであるコルチゾールのレベルや憂うつな気持ちが3分の1低下すること」が示されたそうです。また、手術を受ける女性のうちアートが存在する病院にいた人は病院滞在時間が平均して1日短く、コルチゾールレベルが半分にまで落ちたともいわれています。

チェルシー・アンド・ウェストミンスター病院がいかにアートで満たされているのかは以下のムービーから確認可能です。

CW+ Art and Design Programme on Vimeo


入口は普通ですが……

中は開放的な空間になっており、色とりどりの絵画やオブジェクトが飾られています。

婦人科の入口は特にカラフル。

天井からは色とりどりのオブジェがつり下げられており……

ソファ周辺は緑で満たされています。

ライトはWindowsのロゴっぽい雰囲気。

至るところに大小さまざまな絵画が飾られています。

絵が描かれた床の上で鮮やかな衣装のダンサーが踊ることも。

液晶には熱帯魚や……

満開の花。

病室もものすごく派手です。

The Healing Artsでは、建物の装飾だけでなく治療の中にもアートが取り入れられています。

VRが用いられることもあります。VRは精神疾患を治療する有望な手段として期待されている分野です。

不安や痛みに対して視覚的なアートが与える影響は注目されているところであり、チェルシー・アンド・ウェストミンスター病院のほかにもアートプログラムを持っている病院や、デザイナー・イラストレーターと協力関係にある病院が存在します。シェフィールド・チルドレンズ・ホスピタルはイラストレーターのAndy J. Miller氏によって以下のようなデザインに。

ガイズ病院にはアートプロジェクトを手がけるBAT Studioによって以下のようなリラクゼーションルームがデザインされました。