年間100回以上も雷が落ちる携帯電話基地局に研究者が注目している
by Ray Swi-hymn
東スイスの名峰として知られるゼンティス山の山頂、標高約2500mの位置には高さ124mの携帯電話基地局があります。このゼンティス・タワーと呼ばれる携帯電話基地局にはなんと年間100回以上も雷が落ちているそうで、「世界で最も頻繁に雷に打たれている建造物」ともいわれています。そんなゼンティス・タワーに、雷の研究者らが注目しているそうです。
This Cell Tower in the Swiss Alps Is Struck by Lightning More Than 100 Times a Year - IEEE Spectrum
https://spectrum.ieee.org/tech-talk/energy/environment/an-oftstruck-mountaintop-tower-gets-a-new-lightning-sensor
2019年7月10日、ゼンティス・タワーからおよそ2km離れた位置に、スイス連邦工科大学の研究チームが特殊な観測機器を設置しました。雷のメカニズムについての研究を行っている研究チームは、ゼンティス・タワーに落ちる雷を観測するため、ニューメキシコ工科大学に勤めるマーク・スタンリー氏に広帯域干渉計の開発を依頼したとのこと。ニューメキシコ工科大学で電気工学を教えており、スタンリー氏の開発に協力したビル・ライソン氏は、雷を専門的に観測するには自らの手で機器を開発する必要があると述べています。
スタンリー氏が開発した広帯域干渉計は20~80MHzの帯域幅を持つ3つのアンテナを備えており、雷が放出する強力な電磁パルスを記録することが可能なほか、雷の放電に伴って発生する空電と呼ばれる低周波信号を観測する第4のアンテナも付いています。人の目には一瞬しか映らない落雷も、スタンリー氏が開発した高性能な観測機器を使用することで、実に数GBもの電磁パルスデータとなるそうです。
by Andre Furtado
以下のムービーでは、広帯域干渉計が雷を観測したデータを見ることができます。
Replay of a Lightning Flash Near Florida's Kennedy Space Center - YouTube
雷が発生すると、画面左側に赤い光が灯ります。
赤い部分が雷が広がっている場所を示し、白い部分が雷の移動経路を示しています。
雷は下部まで到達した後……
さらに左方向へも伸びるなど、まるで植物の根が広がるように複雑な光の筋を生み出していることがわかります。
このように雷の動きを詳細にマッピングすることで、研究チームは雷が発生するメカニズムをより深く理解したいと考えているそうです。これまでのところ、雷雲が落雷を発生させるには1mあたり数メガボルトの電場が必要とされていますが、研究者らが実際に気球を雷雨の中に送りこんで行った観測では、1mあたり数メガボルトどころか、その10分の1以下の電場すら観測されなかったとのこと。ゼンティス・タワーに観測機器を設置した研究チームのファルハド・ラチディ氏は、落雷に必要とされている条件が雷雲を観測しても確認できなかったことについて、「これは大きな問題です」とコメントしました。
また、研究チームはTime Reversalという音響学のために開発された数学的手法なども用いて、雷の発生メカニズムについての研究を行いたいとのこと。研究チームはゼンティス・タワーでの観測を続けることで、雷の発生に関する問題解決に向けた一歩が踏み出せると期待しています。
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