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問題の原因を特定するために「5回のなぜ」メソッドを使うべきではない理由とは?

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トヨタが生み出したとされる「問題の原因を特定するためには、『なぜ』を5回繰り返すことで当初は見えなかった問題の原因が見えてくる」という「5回のなぜ」メソッドは、なぜなぜ分析ともいわれて広い分野で使われています。そんな5回のなぜを使って原因を特定するメソッドを医療の現場に応用する際の問題点について、カリフォルニア大学でヘルスケアの研究を行うAlan Card准教授が解説しています。

The problem with ‘5 whys’ | BMJ Quality & Safety
https://qualitysafety.bmj.com/content/26/8/671

なぜなぜ分析とは、ある問題が引き起こした要因「なぜ」を提示し、さらにその要因を引き起こした要因「なぜ」を繰り返し提示していくという問題分析手法です。5回ほど「なぜ」を繰り返すことにより、当初は見えていなかった問題の遠因と対策が見えてくるという主張から、「5回のなぜ」メソッドともいわれています。


そもそも、そんな5回のなぜメソッドはトヨタの自動車工場の生産方式改善のために使われていましたが、その有用性が広く認められるにつれて自動車工場以外の場所でも使用されるようになりました。WHOやイギリスの国民保健サービス(NHS)など、ヘルスケアの分野でも5回のなぜメソッドが問題分析のために使用されているとのこと。

5回のなぜメソッドは「なぜを5回繰り返す」という非常に単純な手法であり、当初は見えていなかった問題の根本原因にたどり着くのに便利だという観点から、支持する人の多い問題分析手法とされています。しかし、Card氏は5回のなぜメソッドをヘルスケア分野で使用することについて、問題があると考えているそうです。

by bruce mars

5回のなぜメソッドを説明するためのケーススタディとして広く用いられているのが、「ワシントン記念塔を保存するための方法」を探り出した際に5回のなぜメソッドが用いられたという話です。このケースでは、5回のなぜメソッドを使って以下のように問題の原因および問題の解決策にたどり着いています。

◆問題:
ワシントン記念塔の状態が悪化している

なぜ?(1):記念塔を洗浄するために使われる化学物質の影響で状態が悪化している
なぜ?(2):記念塔はハトのフンで汚れているため洗浄しなくてはならない
なぜ?(3):ハトは記念塔に生息するクモに引き寄せられている
なぜ?(4):クモは記念塔に生息するユスリカに引き寄せられている
なぜ?(5):ユスリカは夜間に記念塔をライトアップする光に引き寄せられている

◆解決策:
ライトアップの時間を遅らせて、最もユスリカの集まる日没時よりも後にライトアップを行う

「ワシントン記念塔の状態が悪化している」という見かけの状態から、「ライトアップによりユスリカが引き寄せられていることが原因である」と突き止めるのは困難なため、このケースでは5回のなぜメソッドが非常にうまく使われているように思われます。

しかし、現実に5回のなぜメソッドが適用されたのはワシントン記念塔ではなくリンカーン記念堂であり、状態悪化の直接的な原因は化学物質ではなく洗浄に使われる水によるものでした。また、記念堂はクモに引き寄せられたハトのフンで汚れていたのではなく、単にユスリカがライトに引き寄せられて記念堂に衝突した残骸と、卵によって汚れていたとのこと。


確かにユスリカを駆除するという対策はリンカーン記念堂のケースでも有効だったのですが、実際に夜間のライトアップを遅らせたところ、思わぬ弊害が出たとのこと。ライトアップを遅らせることでユスリカの数は85%減少したものの、リンカーン記念堂の写真を撮影するためにわざわざ訪れた観光客らからの不満が続出。結局、ライトアップの時間を元に戻さざるを得なかったそうです。

5回のなぜメソッドがうまくいったモデルケースとして広く使われている事例は、実のところ5回のなぜメソッドだけでは見えてこない広い利害関係や、解決策までの論理過程の間違いといった問題を浮かび上がらせるものだったとCard氏は指摘。単純な問題であればともかく、複雑な要因が絡む問題については5回のなぜメソッドがうまくいかないケースもあることがわかります。


また、5回のなぜメソッドでは問題に対して単一の原因を特定することが目的となっていますが、問題から原因までの経路は一つではないことも多いものです。たとえば「間違った患者に投薬してしまった」という事例を検証する際、以下のように5回のなぜメソッドを駆使して原因を特定したとします。

◆問題:
間違った患者に投薬してしまった

なぜ?(1):患者を識別するリストバンドをチェックしていなかった
なぜ?(2):リストバンドがなかった
なぜ?(3):リストバンドに印字するプリンターが壊れていた
なぜ?(4):プリンターにラベルが詰まっていた
なぜ?(5):プリンターのデザインに問題がある

しかし、現実的に考えると「間違った患者に投薬してしまった」という問題から、全く違う「なぜ」を繰り返すことができます。このケースにおいて5回のなぜメソッドで発見した原因は、あくまでも多岐にわたる原因のうちの1つでしかない可能性が高いとCard氏は指摘。5回のなぜメソッドに頼り切る問題解決は、時として重要な原因を見過ごす可能性があるとのこと。実際の問題分析では、下の画像のように数多くの原因が考えられます。


5回のなぜメソッドは問題の遠因を探るため、なぜを5回繰り返すとしています。ところが、最も重要な原因はさらに遠くにある場合もあれば、5回も繰り返す必要がないすぐ近くにある場合もあり、全ての問題に適用できるものではありません。また、原因が1つだけであるという保証はどこにもなく、原因を探るのではなく「新たに全てを解決する機器やシステムを導入する」といった、原因の究明からではわからない解決方法があるかもしれないとCard氏は述べています。

Card氏は5回のなぜメソッドが複雑に見える問題解決プロセスを単純化し、問題の原因について深く考えてみるという行動を起こしやすい点はメリットだと評価しています。その一方で、5回のなぜメソッドを使用することで問題の本質に気づけないことも多く、自動車工場のようにプロセスが合理化され単純化された環境ではないヘルスケアのような分野では、5回のなぜメソッドを使うべきではないと結論づけています。

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in メモ, Posted by log1h_ik

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