コンピューター用語の「ハッカー」はいつ頃から使われるようになったのか?
by Lisa Brewster
コンピューターを初めとする電子機器や電気回路に精通し、一見すると不可能な問題をその知識と技術を使ってクリアする人を「ハッカー(Hacker)」、その行為を「ハッキング(Hacking)」と呼びます。本来「ハックする(Hack)」は英語で「乱暴にたたき切る、切り刻む」という意味を持ち、俗語では「うまくやり抜く」という意味で使われますが、「『ハッカー』がいつからコンピューター用語として使われるようになったのか」については諸説あるようです。
First Recorded Usage of "Hacker" | Many But Finite
https://manybutfinite.com/post/first-recorded-usage-of-hacker/
First Recorded Usage of “Hacker” (2008) | Hacker News
https://news.ycombinator.com/item?id=19415484
ハッキングには、その高度な技術や知識を善良な目的に生かす「ホワイトハットハッキング」と、ハードウェアへ不正に侵入したりプログラムを不正に改造したりして犯罪を行う「ブラックハットハッキング」の2種類が存在しますが、近年では後者を「クラッキング」と呼び、ハッキングとは明確に区別します。それでもなお「ハッキング」という言葉に犯罪のイメージがついて回ってしまうのは「これまで多くの報道機関がクラッキングの意味合いでハッキングという言葉を使ってきたため」という批判があります。
by Nate Grigg
Yale Dictionary Of Quotations(エール引用辞典)の編纂者であるフレッド・シャピロ氏は、「ハッカー」という言葉が現代に近い意味で初めて使用されたのは1963年11月20日に発行されたマサチューセッツ工科大学(MIT)の学内紙であるThe Techに掲載された以下の記事だと2003年に発表しました。
記事の中で、MITの研究所をつなぐ電話システムの管理者であるカールトン・タッカー教授は「MITの電話網は『ハッキング』のせいでクローズドなものになっている」と発言。さらには「Tucker warns hackers(タッカー氏がハッカーに警告する)」というジョークめいたサブタイトルも添えられていて、当時のMITでは既に「ハッカー」「ハッキング」という言葉が現代に近い意味で使われていたことが示されています。
この記事は電話のハッキングについてのもので、MITで行われたハッキングは1960年代初頭にハーバード大学の学生が発見した、DTMF信号を悪用して世界中のどこにでも無料で自由に電話をかけられるというもの。Appleの創設者であるスティーブ・ジョブズ氏とスティーブ・ウォズニアック氏が高校時代にこのハッキング方法を知り、1970年代に電話を無料でかけられる「ブルーボックス」と呼ばれる装置を販売して大もうけしたというエピソードは有名です。
Apple設立につながる電話ハッキングデバイス「ブルーボックス」についてウォズとジョブズ、関係者が語る - GIGAZINE
シャピロ氏は、このThe Techに登場するハッカーが電話ネットワークへ不正にアクセスして無料で通話する犯罪を行っていることから、現代におけるクラッカーの意味に近いと考え、ハッカーという言葉は本来ネガティブな意味を持つ言葉だったのではないかと主張しました。
しかし、この記事を紹介するHacker Newsのコメント欄で、「ハッカーの初出は1963年のThe Techではなく、1959年のTech Model Railroad Club(TMRC)の辞書ではないか?」という意見が提唱されました。TMRCとはMITにあった鉄道模型同好会のこと。当時TMRCに在籍していたピーター・R・サムソン氏は、TMRCのメンバーに向けた身内用の辞書を作成したとのこと。サムソン氏はそのすべてを自身のホームページで公開していますが、確かにその中に「ハックする」と「ハッカー」の解説が掲載されています。
1959年初版のTMRCの辞書では、「ハックする」の意味は「1:建設的な目的がない記事やプロジェクトのこと。2:つい魔が差して引き受けてしまった仕事。3:エントロピー増大。4:作り出す、あるいは作り出そうとすること」と解説されていました。さらに、サムソン氏はこの記事に対して「私はHackという言葉を『通常であれば工学的な理由で推奨されないような、型破りな技術の応用』を示すと認識していました。実際、辞書を書いた当時にはいくつかの『よいハッキング』が見られました」という注釈をつけています。
これを発見したHacker Newsのユーザーが、The Techの例を発見したシャピロ氏へTMRC辞書についてのメールを送ったところ、シャピロ氏はTMRCの辞書での使用例は既に把握していたことを認めた上で、「この辞書で解説されている意味は一般的なものであり、コンピューターに限った現代の意味合いとはいえない」と回答。しかし、「ハックする」が本来クラックの意味を持っていたのではないかという主張については間違いだったと認めたそうです。
別のユーザーは、「1950年代後半のボストンではホットロッドスタイルに車をカスタムする人をスラングで『ハッカー』と呼んでいた」と主張していますが、これについては確たる証拠が示されておらず、真偽は不明。
by Christopher Allison Photography
また、Hacker Newsのコメント欄には「コンピュータ用語で使われるバス(bus)は戦前から電気工学で使われていたバスバーに由来しているので、ハックの語源も戦前までさかのぼることができるかもしれない」という予想を唱えるユーザーもいました。
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