サイエンス

がんの免疫療法は「がん細胞の遺伝子変異量が多いほど効果的」である可能性が示唆される

by luvqs

免疫機構に作用をもたらして免疫が持つ異物排除や免疫記憶の特異的応答を誘導し、がんを治療するという「がん免疫療法」は、がんに対する新たな治療法として近年注目を集めています。そんながん免疫療法について、「正常な細胞からのDNA変異量が少ない腫瘍よりも、DNA変異が多いがん腫瘍の方が免疫療法がより効果的に働く」という研究結果が2019年1月14日に発表されました。

Tumor mutational load predicts survival after immunotherapy across multiple cancer types | Nature Genetics
https://www.nature.com/articles/s41588-018-0312-8

Highly mutated cancers respond better to immune therapy
https://www.nature.com/articles/d41586-019-00143-8

研究者たちは長年にわたって、「免疫療法によるがん治療が有効な患者とそうでない患者」を見分ける方法を探してきました。もし的確に免疫療法が有効な患者を見つけることができれば、化学療法などと比較して副作用の少ない免疫療法での治療を、免疫療法による効果が見込める患者に選択的に施すことが可能になります。


しかし、人間の免疫系は非常に複雑な機構であり、なかなか免疫療法の効果に影響を与える要素が特定できなかったとのこと。そんな免疫療法の効果に関する仮説の一つとして、「がん腫瘍が正常な組織と遺伝的に異なるほど、免疫系が腫瘍を『異物』として認識しやすくなり、的確に排除する可能性が高まる」というものがありました。

ニューヨークのがん治療・研究施設であるメモリアルスローンケタリングがんセンターの研究者であるLuc Morris氏らの研究チームは、「免疫チェックポイント阻害剤」と呼ばれる免疫療法を行った1662人もの患者のがん細胞データと、同治療を受けなかった5371人のがん患者の細胞データを分析しました。悪性黒色腫(メラノーマ)や乳がんを含んだ10種類ものがんについて調べた結果、これらのがんのほとんどで「正常組織からの遺伝子変異量が多いがん細胞ほど、免疫療法による治療効果が大きい」ことが明らかになったそうです。

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今回の研究は数千人を超えるデータをもとにした大規模な調査であり、Morris氏はこれほどまでに大規模な集団での生存率を調べた研究は世界初だと述べています。研究対象となった全患者において、より高い遺伝子変異負荷(TMB)を持っている点が、免疫療法後の良好な生存率と関連していたとのこと。

また、データによると免疫療法による良好な反応を予測する遺伝子変位数が、がんの種類によって異なることも示しています。もしも臨床試験においてこのアプローチを試したい場合、研究者らは各がんの種類によって「免疫療法が有効か否か」を判断するしきい値を個別に設定する必要があると研究者らは見ています。

がん腫瘍の遺伝子変異量をカウントするにはただでさえ複雑なテストを要しますが、がんの種類によって免疫療法が有効になる遺伝子変異量のしきい値が違うという点は、テストにさらなる複雑さをもたらします。また、全ての遺伝子変異が免疫療法に対し同程度の影響を与えるのか、それとも特定の遺伝子変異が他の変異よりも大きな影響力を持っているのかという点についても不明です。


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しかし、これらの困難にもかかわらず、一部の製薬会社は免疫療法の臨床試験においてがん腫瘍の遺伝子変異量の測定をスタートしたと、投資銀行「Cowen Inc.」のアナリストであるChris Shibutani氏は述べています。Shibutani氏は免疫療法の対象とするべき患者を選択するために、最終的には遺伝子変異量に加えてタンパク質などの情報も組み合わせる必要があると見ています。「これらの複雑なテストは、『keep it simple, stupid(物事を単純にせよ)』という格言に反します」とShibutani氏は語っていますが、それでも免疫療法についてさらなる研究が必要だと主張しました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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