「IQ」と「心の知能指数」、幸福にとって重要なのはどちらなのか？

by Brandi Ama Doyal

「IQと幸福の関係」についてはこれまでさまざまな研究が行われてきましたが、研究結果にはばらつきがあります。「これまでの研究は幸福やIQを測る基準が1つしかなかった」ということで、研究者が新たに複数の基準を使ってその関係を調査しました。IQよりも、心の知能指数の方がウェルビーイングに大きく影響することなどが示されています。

Can Intelligence Buy You Happiness? - Scientific American Blog Network
https://blogs.scientificamerican.com/beautiful-minds/can-intelligence-buy-you-happiness/

Whichever intelligence makes you happy: The role of academic, emotional, and practical abilities in predicting psychological well-being - ScienceDirect
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0191886918302575

IQと幸福の関係はこれまでも研究されており、「関係ない」という結論を示すものがあれば、「高いIQを持つグループに比べて、低いIQを持つグループは幸福レベルが低い」と示すものもあります。一方で、「幸福でない低いIQグループ」は、収入やメンタルヘルスの問題を考慮に入れると約50％減少するという指摘もあります。

過去に行われたIQと幸福の関係を調べる研究は、幸福を測る基準が「生活満足度」1つしかないという点に限界があるといわれてきました。しかし、現代には「自律性」「個人的成長」「ポジティブな関係」「自己需要」「熟達」「生きがい」などさまざまな基準が存在します。

そこで、セルビアのベオグラード大学で研究を行うAna Dimitrijevic氏らのチームは、知能や幸福を示す複数の指標を使って両者の関係を調査しました。研究チームは知能を「複雑なアイデアを理解する能力」「環境に効率よく適応する能力」「経験から学ぶ能力」「さまざまな推理を行う能力」「熟考して障害を取り除く能力」といった点で判断しており、これは心の知能指数を含む複数の「知能」という概念に基づくものとのこと。

by klimkin

研究者は、日用品を製造する会社のさまざまな部署に勤める288人を対象に、知能・幸福の複数の基準を使って調査を行いました。その結果、まず、IQと心の知能指数はそれぞれが個々にウェルビーイングと関係していることがわかりました。IQは人間関係・自己需要・個人的成長・熟達・生きがいとポジティブな関係にあり、心の知能指数はウェルビーイングに加えて「自律性」という点に関係していたそうです。

IQテストについていうと、ウェルビーイングを最も予測した「非言語的流動性推理」といわれる、「パターンの検知」「抽象的な思考力」を問うものでした。

しかし、収入や学歴といった社会経済的地位(SES)を考慮にいれると、IQとウェルビーイングの関係性はなくなってしまうとのこと。これについて研究者たちは「IQが高いと社会的地位や稼ぐ方法を得て、より機会や高いQOLを得ることができ、自分や人生に対して大きな満足を得やすいのではないか」と示唆しています。これは、IQと幸福の関係の大部分が、そのIQを利用する金銭的・教育的機会によって左右されるということを意味しています。

心の知能指数についていうと、最も幸福を予知したのは「感情の理解力」と「感情のマネージメント」という点でした。この2つの点において高いスコアを記録した人は、他人が発する感情のシグナルをより理解し、自分あるいは他者の感情を制御できるので、個人的にも社会的にも高い目標を達成することができるそうです。

by skeeze

心の知能指数はSESを考慮してもウェルビーイングに大きく影響しており、IQよりも強い幸福の予測因子だったといいます。つまり、心の知能指数、特に「高い目標に向けて感情をマネージメントできる能力」が経済環境に左右されず幸福な人生を送るために重要な知能の形といえます。

心の知能指数は状況によってIQを増大させ、低いIQを補うものとしても機能するものといわれています。両者の関係は記事作成時点では不明な点も多いものの、今後さらなる解析が行われることによってその関係が明らかになるものとみられています。