ゲーム

26年の時を超えて幻の海外ファミコン版「シムシティ」のプロトタイプが発見され有志の手により復活


シムシティ」はプレイヤーが市長となって街を設計し運営していく人気シミュレーションゲームで、Macintosh向けとして生まれ、以後、様々なPC向けのバージョンが登場。1991年には任天堂とMaxisによる共同開発のもと、スーパーファミコン向けの「シムシティー」が発売されました。このスーパーファミコン版と同時に、ファミリーコンピュータの海外版であるNintendo Entertainment System(NES)向けにも「シムシティー」がリリースされる予定でしたが、直前になぜか発売中止。そのテストROMが2017年に発見され、有志の手によって完成されたNES版「シムシティ」のROMデータが2018年12月25日から公開されています。

Recovering Nintendo’s Lost SimCity for the NES – Video Game History Foundation
https://gamehistory.org/simcity/


PC版が発売された1989年、任天堂のデザイナーであの「スーパーマリオブラザーズ」や「ゼルダの伝説」を手がけた宮本茂氏は、街づくりのゲームのアイデアを練っていたそうです。「シムシティ」というゲームの存在を知らなかった宮本氏は、すでに同じコンセプトのゲームが作られて大ヒットしていたことを知って「私が想像していたようなゲームがすでに『シムシティ』という名で存在していたことに驚きました」とコメントしています。

「シムシティ」を家庭用ゲーム機で発売する権利を取得するため、開発会社のMaxisと任天堂の間で交渉が始まりました。宮本氏を含む任天堂社員はカリフォルニア州のマキシス本社に向かい、「シムシティ」の開発チームと交流を深め、最終的に契約を成立させました。契約条件は明らかになっていませんが、一説によると100万ドル(当時の資産価値でおよそ1億3000万円)を超える額の契約金が支払われたとのこと。

契約成立後、「シムシティ」の生みの親であるウィル・ライト氏は京都の任天堂本社に向かい、宮本氏と一緒に1週間かけてスーパーファミコン版の開発を行いました。PC版はマウスで操作するゲームデザインとなっていましたが、2人は十字キーとボタンで操作するファミコンでも遊べるように「シムシティ」を再デザインします。


1991年に発売されたスーパーファミコン版には、プレイヤーの顧問を務めるライト博士が新しく追加されました。ライト博士は「シムシティ」の複雑なシステムをプレイヤーに説明してくれる役割を果たすキャラクターで、シミュレーションゲームに慣れていない人でも遊べるようにするための工夫でした。また、「銀行にお金を借りて街作りを進める」という銀行ローンシステムもこの時に追加されたモードです。


さらに、PC版にはシナリオらしいシナリオはほとんどありませんでしたが、スーパーファミコン版で初めてゲーム性の高いシナリオが追加されました。そもそも「シムシティ」は最初から街作りをコンセプトに作られたゲームではなく、ライト氏が開発したコモドール64版「バンゲリングベイ」のマップエディターが原型となっています。なお、ファミコン版「バンゲリングベイ」はハドソンによって移植され日本で大ヒットし、その売上のおかげでライト氏は「シムシティ」の開発ができたといわれています。


1990年6月7日付けの日本経済新聞で「『シムシティ』がNES(ファミコン)とスーパーファミコン向けに発売される」と報じられました。実はスーパーファミコンの海外版であるSuper Nintendo Entertainment Systemがアメリカで発売されるのは日本より1年遅れの予定だったため、海外市場向けとしてNES版も同時並行で開発されていたとのこと。1991年に任天堂は雑誌「Nintendo Power」の中で「NES版とスーパーファミコン版はグラフィックに違いがあるだけで、システムはほぼ一緒の予定」と述べています


発売に先立つ1991年1月、任天堂は家庭用ゲームの見本市「Winter Consumer Electronics Show」に出展し、ファミコン版とスーパーファミコン版の実機プレイデモを公開しました。しかし、NES版のプレイ映像はこのWinter Consumer Electronics Showで公開されたものが唯一で、1991年4月26日に発売されたのはスーパーファミコン版のみでした。以下のムービーは、1991年のWinter Consumer Electronics ShowでNES版「シムシティ」を紹介する映像記録です。

SimCity NES Prototype - Winter CES 1991 Trade Show Footage - YouTube


なぜ販売が中止されたのかは明らかになっていませんが、Winter Consumer Electronics Showでの公開から26年間、NES版「シムシティ」は幻のゲームとして一部のコアなゲームファンの間で語り継がれることとなります。

2017年、シアトルの中古ゲームショップに開発用と思われるNESカートリッジが2本持ち込まれました。このカートリッジに収録されていたタイトルが、あの幻のNES版「シムシティ」でした。カートリッジ2本のうち、1本はコレクターに販売されてしまいましたが、もう1本は所有者の手元に残っていました。ゲームの保存とゲーム史の研究を行う団体「The Video Game History Foundation」はこのカートリッジ2本のデジタルコピーを入手し、調査を行いました。


調査の結果、2本のカートリッジの中身は同一で、NES版「シムシティ」のプロトタイプだったことが判明。カートリッジの1つには「1990年12月20日」というラベルが書かれていることから、このカートリッジはもともとテスターにプレイさせるために用意されたものだと考えられています。あくまでもプロトタイプなので、いくつかの大きなバグやタイプミスなどもあって完成品とはいえないものだったそうですが、それでも市販のNESに挿せば十分プレイ可能な状態だったそうです。


実際にNES版「シムシティ」を遊んでいる様子は以下のムービーで見ることができます。

SimCity NES Unreleased Prototype Gameplay - YouTube


さらに、NES版・スーパーファミコン版は共に岡素世氏が作曲していましたが、NES版とスーパーファミコン版で1曲を除いて全く違う曲が用意されていたことも判明。岡氏は当時のインタビューで、NES版に作曲した曲の1つが自身の最高傑作の1つだと述べていたとのことで、2018年時点でもサウンドトラックの解析が進められています。NES版の音楽は以下のムービーで公開されています。

Unreleased SimCity NES Soundtrack - YouTube


また、ライト博士のアニメーションはNES版にも追加されていました。スーパーファミコンより性能が劣るNESでもライト博士のコミカルなアクションを拝むことができます。ただし、実機でブラウン管テレビに映してプレイするとチカチカしてしまい分かりづらくなるためか、一部は没データとしてカートリッジ内に収められていたそうです。NES版のライト博士の動きは以下のムービーで見ることができます。

SimCity NES Prototype - Dr. Wright Animation Showcase - YouTube


2018年、The Video Game History Foundationの協力者であり、NESの専門家であるCaH4e3氏がNES版「シムシティ」のデジタルコピーを元にコメントをつけながら解析を行い、一部コードを補いながらゲームを完成させました。The Video Game History Foundationは最新のNESエミュレータで動作するROMファイル・コメント付きのソースコード・有志による説明書などをセットにして、2018年12月25日からInternet Archiveで公開しています。

SimCity NES Prototype Archive : Free Download, Borrow, and Streaming : Internet Archive
https://archive.org/details/simcity-nes

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
失われつつあるゲームの歴史を保存する運動に取り組む非営利団体「Video Game History Foundation」とは具体的にどんな活動をしているのか? - GIGAZINE

オンラインゲームを含めたビデオゲームの保存活動が「デジタルミレニアム著作権法」の免除対象に、ただし合法的に入手したものに限定 - GIGAZINE

オープンソースの「シムシティ2000」リメイクプロジェクトをEAがDMCA違反で削除申請 - GIGAZINE

シムシティで生み出された人口600万人超の究極のディストピア都市「マグナサンティ」 - GIGAZINE

シムシティのゲームクリエイターが明かす開発秘話とは? - GIGAZINE

元祖シムシティの開発者であるウィル・ライト氏がシムシティのサーバ問題に苦言 - GIGAZINE

電子ドラッグと評されるほど中毒性の高い戦略ゲーム「シヴィライゼーション」はどのようにして誕生したのか? - GIGAZINE

in 動画,   ゲーム, Posted by log1i_yk

You can read the machine translated English article here.