ヒヨコの性別を生まれる前に判別し「オスだから」という理由で殺されるヒヨコをゼロにする試みが成功
ニワトリのヒナであるヒヨコはオスとメスの区別が非常に難しく、生まれたばかりのヒヨコの性別を判定する「初生ひな鑑別師」という国家資格があることも知られています。そこでメスだと判定されたヒヨコはそのまま育てられて卵を産まされますが、オスと判定されたヒヨコは卵を産まず食肉加工するにもコストがかかりすぎるため、すぐにシュレッダーなどにかけられて処分されてしまいます。そんな「生まれてすぐ殺されてしまうヒヨコ」をゼロにするため、卵の段階で中のヒヨコがオスかメスかを判別する試みが成功したと報じられています。
World's first no-kill eggs go on sale in Berlin | Environment | The Guardian
https://www.theguardian.com/environment/2018/dec/22/worlds-first-no-kill-eggs-go-on-sale-in-berlin
Scientists now have a way to end killing billions of male chicks — Quartz
https://qz.com/1506697/scientists-now-have-a-way-to-end-killing-billions-of-male-chicks/
卵を産まないヒヨコのオスには育てても経済的メリットがないため、世界中で年間数十億羽ものオスのヒヨコが殺処分されているといわれています。窒息死させられるヒナもいればシュレッダーにかけられるヒナもいるそうで、多くはハ虫類などの飼料となるとのこと。人間の営みのために生まれたばかりのヒヨコが殺されてしまう現状の生産体制は、多くの動物保護活動家などから非難を集めています。
ドイツのスーパーマーケット「Rewe Group」では、そんな生まれてすぐに殺処分されてしまうヒヨコを減らすため、卵がふ化する前に性別を判断できるような仕組みの開発に取り組んできました。その結果、卵が産まれてから9日目にヒヨコの性別を判定し、その時点でメスの卵のみをふ化器で育て続けることにより、ふ化してすぐに殺されるヒヨコを減らす方法の開発に成功しました。この新たな仕組みによって選別されたメスのニワトリから生まれた卵は、「Seleggt」という商品名でベルリンのスーパーマーケットに並んでいるとのこと。
SelegtのディレクターであるLudger Breloh氏は、「この手法により生きたヒナを殺す必要がなくなります」と語りました。ふ化する前にヒヨコを選別する方法の開発は世界的に行われているそうで、「開発者らは全員が『殺されてしまうヒヨコをなくす』という同じ目標に向かって進んでおり、誰が最初に開発に成功するかどうかといった勝ち負けの問題ではありません」とBreloh氏は話します。
Breloh氏はライプツィヒ大学のAlmuth Einspanier教授が化学マーカーを利用し、メスのヒヨコが入った卵に含まれるホルモンを検出する方法を開発したことでブレークスルーが起こったと述べています。Einspanier氏が開発した化学マーカーを産まれてから9日目の受精卵から採取した液体と混ぜると、98.5%の判定精度で卵がオスの場合はマーカーが青色に変色し、メスの場合は白色に変色したとのこと。
次にBreloh氏は大量のヒヨコを判別する工場で日常的にテストを行うため、簡単にヒヨコの性別を判定する装置を作る必要に迫られました。そこでオランダのHatchTechという企業に対し、化学マーカーによる卵のテストを行う自動機械の開発を依頼したそうです。
機械は誰にでも使いやすく正確で衛生的、そして性別を判断した後に正しくふ化できるように、卵を2時間以上ふ化器から出さないようする必要もありました。最大の問題だったのは、「卵を傷つけることなく卵から試験用の液体を抽出する」という点です。針などで殻に穴を空けると衛生的にも問題があるため、HatchTechはレーザーで幅0.3mmの小さな穴を空け、卵の殻に空気圧をかけてほんの1滴だけ液体を絞り出すという手法を開発したとのこと。このプロセスを使用することで、1個の卵からわずか1秒でテスト用の液体を採取することが可能になりました。
機械が出産後9日目の受精卵のオスメスを判別し、この時点でオスと判断された卵はヒヨコが産まれる前に飼料などへ加工されます。そしてメスと判定された卵のみが、ふ化器で飼育が続けられるとのこと。2018年の初めにこの方法で性別を判定されたヒヨコがふ化し、成長したニワトリから産み出された卵が2018年11月にベルリンのスーパーマーケットへ出荷されました。
Rewe Groupは2019年にドイツ全土のスーパーマーケットへSeleggtを出荷し、2020年にはこの技術を独立したふ化場に設置、将来的にはヨーロッパ全土に同様のモデルを拡大したいと考えています。「市場の準備もすでに整っており、ヒヨコの出生前性別判定についてドイツがパイオニアとなりました」とドイツの連邦食糧・農業大臣であるJulia Klöckner氏は語っています。
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