ニューヨーク最後の一軒となった「チェスショップ」のオーナーに密着したムービーが公開中
チェスは古くから多くの人々に愛されてきたボードゲームであり、今なお大きな人気を誇っています。その一方でインターネットでの対戦が容易になり、対面式でプレイできる昔ながらのチェス専門店は姿を消しつつあるそうです。ニューヨークで唯一となったチェスショップ「Chess Forum」のオーナーを務めるImad Khachan氏に密着したムービーが、YouTubeで公開されています。
The Last Chess Shop in New York City
「Chess Forum」はニューヨークの町中にひっそりと店を構えています。
細長い店内には、壁に沿った左右にチェス盤が備え付けられたテーブルと椅子が並べられています。
壁には多くのアメリカの文学者たちの写真が飾られていました。
「私はアメリカ文学の博士号を得るためにアメリカへ来ました」と語るのは……
Chess ForumのオーナーであるImad Khachan氏。
パレスチナ難民であったKhachan氏は「私の父は、『子どもが家に帰ってドアが閉まっている、これほどひどいことはない』と言っていました。私はこの場所を、他に行き場所のない人たちが訪れる場所にしたいと思います」と話します。
Chess Forumにはチェス用品を買いに訪れる人の他……
多くの人々が集まってチェスをプレイしています。
この2人がプレイしているのは、持ち時間が1人5分と決められた「スピードチェス」。持ち時間を示したタイマーを傍らに置き、自分がコマを動かしたらタイマーを止めるというルールになっています。
Chess Forumの常連であるMike Bloomさんは、「私はここに来たらいつもスピードチェスをプレイしています。1週間にだいたい200ゲームくらいかな」と語ります。
同じく常連のSebastian Ospinaさんは、「普段はインターネットでチェスをプレイしていますが、この場所で人と対面してMikeのような常連とプレイするのも楽しいです」と話しました。
常連の2人がスピードチェスをプレイすると、それぞれがほぼノータイムで次々とコマを動かしていきます。
Mikeさんは「Sebastianはとてもアグレッシブなプレイヤーだね。でも、僕が優れてるとしたらプレイの速さかな」と言い……
Sebastianさんは「Mikeのプレイは僕より速いね。人生より速い」とジョークを飛ばしました。
Khachan氏は「何も話さなくても、たとえ言葉が通じなくても、向き合って座ってチェスをプレイすることはできます」と話し……
チェスをプレイすることで言葉を交わさなくてもお互いにコミュニケーションが取れると言います。
Chess Forumでチェスをプレイする人々は性別や年齢もさまざま。
母親に付き添われてチェスをプレイする子どももいます。
Khachan氏は結婚せず、家族もいないとのことですが……
Chess Forumに訪れる全ての人々の父親であると感じているそうです。
小さな子どもを連れて来店した男性に、さまざまなチェス用品を見せるKhachan氏。
「私の祖父がまだ生きていたころ、月に数度は家族全員が集まっていました。しかし、最近は家族が一堂に会する機会はそうそうありません」と語る男性。
しかし、Chess ForumでKhachan氏や常連の人々と出会うと、それぞれ人種や背景が全く違う人々であるにも関わらず、まるで家族と再会したかのような気分になるとのこと。
子どもが「ねえ、名前は?」と尋ねると……
「Imadだよ」と答えるKhachan氏。子どもは「へえ、面白い名前だね」と言って笑います。
「自分が持っているものは、自分が与えたものである」という考えを持っているKhachan氏。
パレスチナ難民としてレバノンで生まれ育ったKhachan氏は、ニューヨークという町が自分に居場所を与えてくれたと語ります。
苦しい生活を強いられたこともかつてはあったそうですが、ニューヨークでは命の危険を感じるようなことはなかったとのこと。
ニューヨークに夜が訪れると……
Chess Forumの店内には明かりがともり、ディスプレイされたチェス用品が美しく浮かび上がります。
「何を勉強してるの?」とKhachan氏がお客さんに尋ねると、「映画やTVの勉強をしてます」という答え。「ハリウッドで見るのを楽しみにしてるよ」と言い、笑顔でお客を見送るKhachan氏。
Chess Forumはかつて24時間営業していたこともあり、住む場所がなくニューヨークの夜をさまよう人々を受け入れていたこともあったとKhachan氏は語ります。
実際、Chess Forumの常連の中には、住む家を持たない人々も含まれているとのこと。夜のシフトを担当していた人を「King of the Night(夜の王)」と呼んでいたそうです。
今では営業が終了するとKhachan氏が鍵を閉め、戸締まりを行います。
Khachan氏はニューヨークの夜が大好きだとのこと。
ニューヨークの通りには夜になるとカーテンの閉まった家の中に暮らす人々と、夜になっても眠らずに町の中にいる人々、2つの生があるとKhachan氏は言います。
「朝になって人々がカーテンを開ければ、私が好きなニューヨークの夜は消えてなくなります」と語り、Khachan氏は夜の町に姿を消しました。
・関連記事
人間がコンピューターに勝てなくなってもチェスの人気は衰えていない - GIGAZINE
「チェスのプレイヤーは短命」という都市伝説は本当なのかを研究者が調査してわかったこととは? - GIGAZINE
チェスを義務教育化したアルメニアはその後どうなったのか - GIGAZINE
日本の「世界で最も薄い紙」を作る職人に迫るムービー - GIGAZINE
アメリカ最後の野球グラブメーカーに迫ったムービーが公開中 - GIGAZINE
ポーランドの山奥だけで作られる美しい幻のチーズ「Oscypek(オスツィペック)」 - GIGAZINE
高知県の山奥でただ1人伝統を守り続ける鍛冶職人と伝統を受け継ぐ若い弟子を紹介するムービー - GIGAZINE
・関連コンテンツ