自動運転車が生み出した膨大なデータは自動車のオーナーではなく自動車メーカーが著作権を所有している

By zombieite

いくつものセンサーを搭載し、コンピューターが状況を判断して走行することができる自動運転車では、常に膨大な量のデータが生み出され続けています。その中身は車両の状態や周囲の環境など、自動運転車の開発や安全対策における貴重なデータであるわけですが、そのデータに関する財産権(データベースの著作権)はほとんどの場合、自動車メーカーが保有しています。

EU hijacking: self-driving car data will be copyrighted...by the manufacturer / Boing Boing
https://boingboing.net/2018/10/10/corporate-kitts.html

2018年10月、EU議会が実施した自動運転車に関する評決である出来事が起こったとのこと。議題に上げられていた新たな規則では、「自動運転車両によって作成されたデータは自動で作り出されたものであり、また、その根源からして創作物ではないために、データベースを著作権によって保護することは不適当である」という内容が含まれてましたが、規則は欧州人民党によって否決されました。

欧州人民党は、、世界的に「悪法」という評価が支配的な「改正著作権指令案」を推し進めてきた勢力でもあるとのこと。

EUが通称「リンク税」などを含む著作権法改正案を可決 - GIGAZINE

新規則が否決されたことで、自動運転車が生み出したデータは著作権によって保護され続けることになりますが、そこで注目すべきなのは「データは誰の持ち物なのか」という点となります。特に自動運転車が生成するデータは、自動運転車の安全性の評価や品質向上、そして実際に車両が仕様通りに動作できているかを判断するための貴重な資料となり得ます。しかし、現状ではこれらのデータは、ユーザーとの間で交わされた合意によって各自動車メーカーに所有権があることになっているとのこと。

その一例が、「John Deere(ジョン・ディア)ブランドで農業用車両や建設機器の開発と販売を行っているメーカーディア・アンド・カンパニーのケースです。

John Deere US | Products & Services Information
https://www.deere.com/en/index.html

同社の農業用トラクターには、土壌の肥沃度を湿度センサーなどで判断し、センチメートルレベルの精度の位置情報と紐付けて広大な農地のデータを生成する機能が搭載されています。このデータはユーザーの農業生産に活用されることになるわけですが、実はその主導権はメーカー側にあります。トラクターが生成したデータは直接農家が閲覧できるわけではなく、開放されるデータは全体の一部にとどまっているとのこと。また、そのデータも種苗メーカーである旧Monsanto(現Bayer傘下)が提供しているアプリを通してのみ閲覧が可能な状態になっていたそうです。

これはもちろん、ユーザーがあらかじめメーカーと交わした契約で定めるものであり、デジタル著作権管理(DRM)によって保護されているものであるため、違法性を持つものではありません。そして、メーカーなどデータの権利を所有する側の立場にある者は、そのデータをもとにビジネスを展開しています。

それ自体はまっとうな商業活動であるため、基本的には何らとがめを受けるものではありませんが、自動運転車など幅広い車両が生み出すデータは、ビジネスでの活用だけでなく、安全性の向上や品質評価、さらにはそのデータをもとにした新しい交通システムや都市設計にさえ役立てられる可能性を秘めています。いわば、次世代のための大きな資産がここに隠されているわけですが、そのデータが特定の者によって独占的に活用されている状態だとその「資産」が最適な形で活用されることはほぼ期待できません。

もはや自動運転車が生み出すデータはそれ自体が「金を生む木」となっている状況が生まれているわけですが、その資産を広く社会のために活用できるようにする取り組みもまた、議論されるべき課題といえそうです。