Airbnbが常に適正な価格を設定する「スマートプライシング」のために取り入れている仕組み
By Steel Wool
自分の空き部屋をシェアして利用料を得ることができるAirbnbでは、部屋を提供する「ホスト」が自由に価格を決めることができます。そこにはAirbnbが時期や近隣の物件の状況、イベント情報などさまざまな状況に応じて「適切価格」を提供するための仕組み「スマートプライシング」が用意されており、その内容を記した論文「Customized Regression Model for Airbnb Dynamic Pricing(Airbnbの動的価格設定のためのカスタマイズされた回帰モデル)」が発表されています。
KDD 2018 | Customized Regression Model for Airbnb Dynamic Pricing
http://www.kdd.org/kdd2018/accepted-papers/view/customized-regression-model-for-airbnb-dynamic-pricing
Customized regression model for Airbnb dynamic pricing | the morning paper
https://blog.acolyer.org/2018/10/03/customized-regression-model-for-airbnb-dynamic-pricing/
Airbnbは、一般の人が自分の空いている部屋に値段をつけて利用者に提供するというネット社会ならではのサービス。しかし「自由に価格を決められる」ということは「諸刃の剣」となり得るもので、専門家ではない素人にとって物件の状況や競争力などを加味して適切な価格を設定し、利益を最大化することは容易ではありません。値段を下げすぎて収益が落ちたり、逆に価格を上げすぎて稼働率が下がってしまうと、トータルの収益は下がってしまうことになるほか、プラットフォームとしてのAirbnbとしてもサービスの質が落ちてしまうという好ましくない状況が生まれてしまいます。
そのような問題をクリアするためのソリューションとして、Airbnbはホストが物件を提供しているエリア内の需要に合わせて競争力ある1泊料金を算出して推奨料金を提案するスマートプライシングと呼ばれる機能を提供しています。
スマートプライシングでの推奨料金はホストの希望条件と数多くのデータを総合的に判断しながら生成されており、料金決定要因は実に70以上に及ぶとのこと。料金更新には以下のような要素が反映されています。
中の人が語る、「スマートプライシング」のメカニズム – The Airbnb Blog – Belong Anywhere
https://blog.atairbnb.com/smart-pricing-locale-ja/
・残り時間:チェックイン日が近づくにつれ、料金は変わります
・エリアの人気度:エリア全体の検索数が増えるにつれ、料金は変わります
・シーズン:繁忙期や閑散期に入ると、料金が変わります
・リスティングの人気度:ビュー数と予約が増えるにつれ、料金は変わります
・リスティングの記載情報:Wi-Fiなどのアメニティ·設備を増やすと、料金が変わります
・予約履歴:予約が入ると、成約段階の料金もその後の料金に影響を与えます。たとえばスマートプライシングの推奨料金より高い料金を手動で設定し、それで予約が入った場合には、アルゴリズムはそこから学習し、推奨料金に反映していきます。
・レビュー履歴:高評価レビューが増えるにつれ、料金は変わります
スマートプライシングでの価格は上記のような要素などをもとに設定され、さらに実際の利用状況などが反映される「Customized Regression Model(カスタマイズされた回帰モデル)」によりその後の価格が調整される仕組みになっているとのこと。論文ではその仕組みが詳しく解説されていますが、実際に読む前に論文を元に作られた以下のムービーを見ておくと理解が進みます。
Customized Regression Model for Airbnb Dynamic Pricing - YouTube
Airbnbは、自宅の部屋を利用者にシェアしたり、現地でのさまざまなエクスペリエンス(体験)を提供したりできるサービス。
使ってない部屋を持てあましている家主や魅力ある物件を提供したいホストと、訪問先でホテル以外の部屋を探しているユーザーを結び付けるのがAirbnbのサービスです。
そんなAirbnbにおいても、「需要と供給」という価格決定のメカニズムは存在します。しかし、多くのノウハウやシステムを持つ専門業者ではないホストにとって、適切で競争力のある価格を設定して、利益を最大化することは容易ではありません。そして、Airbnbにとっても、より魅力的な価格を設定することでユーザーとホストを含めたサービス全体の品質を向上させることが重要です。
そこでAirbnbでは、いくつかの価格設定ツールを提供しています。Airbnbはホストに対して物件の最適な単価や週末価格、長期割引価格などの情報を提供するほか、「推奨価格」や「スマートプライシング」の機能を提供することで、「低すぎず・高すぎず」のベストな価格設定を実現させ、物件とサービスの稼働率アップを狙っています。
スマートプライシングは、「宿泊する人数」や「利用予定日」「他の物件の予約状況」「ホストが出しているリスティングの最高品質」などのパラメーターを考慮に入れ、アルゴリズムが自動で最適な価格を提示します。
スマートプライシングの価格は、各日に予約が入れられる可能性を評価するバイナリ評価モデル「Booking Probability Model(予約可能性モデル)」と、日々の価格を決定するための回帰モデルを活用する「Strategy Model(戦略モデル)」、そして最終的に提案価格を決めるために上記のプロセスのアウトプットに調整を加えるロジック「Personalization(個別設定)」のフェーズを経て決定されます。
予約可能性モデルは、Airbnbにおける需要曲線を決定するために用いられるとのこと。予測された需要曲線(赤)と実際の需要曲線(緑)の間にはギャップが存在し、価格を高く設定しすぎて機会ロスを発生させたり、逆に低く設定しすぎることで利益率が低くなってしまったりします。この予測と実際のギャップを限りなく近づけることで、ホストの利益が最大化されるというわけです。
しかし、実際には正しい需要曲線に基づいて価格を決定することは非常に困難です。「最適化された価格」を考えるときに、併せて考えるべきなのが、「悪い価格設定とは何か?」を考えることが重要です。
予約が入らなかった日(緑)があったとき、それは需要よりも価格が高く設定されすぎていた、ということを意味します。その背景には「当日にそのエリアで魅力的なイベントがなかった」や「天候が悪かった」などの要因が含まれることが考えられますが、それら全てをひっくるめて「需要」と考えた時に、その需要から導かれる最適な価格に対して、リスティングで設定されていた価格が高すぎたと判断されます。
逆に、予約が入った日(緑)の最適な価格よりも提示価格の方が安かった場合、これはスマートプライシングが最適な価格よりも低い価格を提案してしまっていたことを意味します。
このギャップを埋めるために、Airbnbでは損失関数を用いることで今後のスマートプライシングの精度向上を図っているとのことです。
論文では、複雑な数式を用いてこの辺りの仕組みが詳細に解説されているので、特にデータサイエンスに関心がある人には非常に参考になるはず。日本語で中身に触れたブログなどもあるので、そちらも参考になりそうです。
【KDD2018】論文『Customized Regression Model for Airbnb Dynamic Pricing』を読んでまとめた - 港区で苦しむマーケティングサイエンティストのメモ帳
https://honawork.hatenablog.com/entry/2018/08/24/181947
【論文メモ: Airbnb Pricing Model】Customized Regression Model for Airbnb Dynamic Pricing - Re:ゼロから始めるML生活
https://tsunotsuno.hatenablog.com/entry/2018/09/24/085427
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