世界最高「1200テスラ」という強力な磁場を発生させることに成功、実験の様子が完全にSF映画

東京大学の研究グループがMRIの400倍にあたる1200テスラという強力な磁場を発生させることに成功しました。これは、室内で行われた高度に制御が可能な磁場を生み出す実験としては、過去の記録を大幅に超える世界最高記録となります。実験の様子はYouTubeで公開されており、SF映画の世界さながらの様子が話題となっています。

室内発生世界最高磁場1200 テスラを記録 ー未知なる強磁場科学の幕開けー | 物性研究所
http://www.issp.u-tokyo.ac.jp/maincontents/news2.html?pid=6034

Magnetic Field Record Set With a Bang: 1,200 Tesla - IEEE Spectrum
https://spectrum.ieee.org/nanoclast/semiconductors/nanotechnology/magnetic-field-record-set-with-a-bang-1200-tesla

東京大学の研究チームは2018年1月に新しい実験装置を使って世界最高となる985テスラの磁場を発生させることに成功しました。それまでの最高記録は2011年の730テスラだったため大きな飛躍となったわけですが、9月17日付の「Review of Scientific Instruments」で新たに1200テスラという記録が発表されました。

Record indoor magnetic field of 1200 T generated by electromagnetic flux-compression: Review of Scientific Instruments: Vol 89, No 9
https://aip.scitation.org/doi/full/10.1063/1.5044557

実験の様子は以下のムービーから見ることができます。強力な磁場が発生した直後に爆発が起こっており、その様子はSF映画さながらです。

Magnetic Field Record Set With a Bang: 1200 Tesla - YouTube

これがその実験装置。ムービーが始まって3秒ほどは何の変化も起こりませんが……

いきなり大きな爆発音とともに画面が真っ白に。これだけを見ると事故現場のようですが、実験で爆発が起こるのはよくあることだそうです。

火花が散り……

すぐ後にもう一度爆発。

しかし、数秒後にはすぐ落ち着きました。

1200テスラという磁場はMRIの400倍にあたります。実験を行った1人である東京大学物性研究所の嶽山正二郎教授は、この装置の最高記録が700テスラほどになると考えていたとのことですが、それを大きく上回る結果が出ることとなりました。

強磁場発生の方法は大きく「磁束濃縮法」「一巻きコイル法」に分けられます。今回用いられたのは、磁束濃縮法のうち、金属円筒の中に通過させた磁束を電磁力で圧縮するという「電磁濃縮法」です。円筒内部の磁束は外側に漏れ出すことができないため、最終的に小さな空間に強磁場が発生することとなります。

具体的にいうと、実験における初期磁場の大きさは3.2テスラで、MRI内部と同程度でした。鉄製の一巻きコイル(主コイル)内に長さ12センチ・厚さ1.5ミリの金属筒(ライナー)を設置し、480本のケーブルを介して主コイルに電荷を放出。すると、ライナーの収縮に伴って40.3マイクロ秒後に600テスラを超え、40.7マイクロ秒後あたりで1200 テスラに達しているのが明確に捉えられました。

実験装置は衝撃波に耐えられるよう鉄製の囲いで覆われており、700テスラの衝撃波に耐えられるようデザインされていました。しかし、実験開始当初は1200テスラという強力な磁場を想定していなかったため、実験では囲いの扉が破壊されてしまっており、「次はより強力なものを作ります」と嶽山教授は語っています。

研究グループは文科省最先端研究基盤事業「次世代パルス最強磁場発生装置の整備」計画の下に、1000テスラ級電磁濃縮超強磁場発生装置を完成させました。強力な磁場のもとでは電子の動きが制限され、これまでよりも正確な測定が可能になるため、固体物理学の新たな発見が期待されています。

この装置によって「半導体、ナノマテリアル、有機物質、超伝導体、磁性体で未解明の固体物理量子現象の解明により強力な手段を手に入れたことになります。人知による強磁場発生の世界で新たな歴史の一ページを開きつつあると言えます」と研究者は述べました。