サイエンス

極小重力下で原子を「物質の第5の状態」において観察する実験が実施される


絶対零度からごくわずかだけ温度が高い超低温の環境で原子を第5の状態「ボース=アインシュタイン凝縮」に置き、その状態を観察するという実験がドイツの研究チームによって実施されました。実験では高度約250kmまで上がる気象観測ロケットが用いられ、6分程度にわたる極小重力環境下で100を超える観察が行われています。

Space-borne Bose–Einstein condensation for precision interferometry | Nature
https://www.nature.com/articles/s41586-018-0605-1

For The First Time, Physicists Created a 'Fifth' State of Matter in Space
https://www.sciencealert.com/bose-einstein-condensate-space-record-maius-1-experiment-results

ボース=アインシュタイン凝縮(Bose–Einstein condensation:BEC)は、固体・液体・気体・プラズマに次ぐ「物質の第5の状態」とされるもので、1925年に物理学者のサティエンドラ・ナート・ボースとアルベルト・アインシュタインによってその存在が予言されていました。その後、1995年にコロラド大学とマサチューセッツ工科大学の研究チームがそれぞれBECの実現に成功し、2001年にはノーベル物理学賞を受賞しています。


BEC状態にある原子は、粒子的ではなく集団的な波としてのふるまいを見せるようになります。この「雲」のような状態では多数の原子が同一の波動を行うようになり、個々の原子を区別できないので、原子雲全体が1つの「超原子」のようなものになっていると考えられています。

BECは磁場や集束レーザーなどを用いて作り出した「原子トラップ」の中で原子の振動運動を封じ込めることで、絶対零度に限りなく近いところまで物質を冷却して作り出されます。しかし、重力の影響を受ける地上ではBECを作り出せても、レーザーの照射を止めるとあっという間に雲が落下してBECの状態が失われてしまいます。そのために考え出されたのが宇宙の極小重力環境を利用したBECの研究で、2018年5月には、今回の研究とは別にNASAが打ち上げて国際宇宙ステーション(ISS)に設置した実験設備の中でBECが作り出されていました。

宇宙ステーション上でボース=アインシュタイン凝縮実験を開始 | マイナビニュース
https://news.mynavi.jp/article/20180822-682360/


ドイツの研究チームは、気象観測ロケットを使ってBECを宇宙空間で作り出し、6分間という「長い時間」にわたってBECを維持することで100を超える観測を行う実験を実施しました。 「MAIUS 1(Matter-Wave Interferometry in Microgravity experiment:無重力状態での物質波の干渉)」と名付けられた実験では、2017年1月23日にロケットをスウェーデン北部のキールナにあるエスレンジ宇宙センターから打ち上げ、最高点で弾道飛行を行うことで極小重力環境を作り出しました。

通常、BECを作り出すためには部屋ほどのサイズがある施設を使う必要がありますが、そのような巨大なものを打ち上げることは効率的ではありません。上記のNASAでもその小型化が行われており、ISSに設置された設備は大きめの冷蔵庫程度のサイズに小型化されているとのこと。ドイツの研究チームは、小型の「原子チップ」の上に磁場を形成し、その中に複数のルビジウム原子を閉じ込めて絶対零度にほど近いマイナス273度まで冷却することでBECを作り出す方法を開発しました。


6分間にわたる極小重力環境下で作られたBECを用いて、研究チームは110に及ぶ計測を実施し、極小重力環境下でBECがどのような挙動を見せるのかを観測。その中には、BECによる原子雲をレーザーで「切断」し、再び合体させるというものもあったとのこと。その際には、双方のかたまりが持つ周波数の違いがどのような状態になるかが観測されており、最終的には重力波の検出技術の改善に反映されることが期待されているそうです。

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log