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工場内の温度を下げて適温にすることには生産性・利益性を向上させる効果がある

By Asian Development Bank

夏のうだるような暑さの中では仕事がはかどらないように、人間には「活動しやすい温度」というものがあるものです。多くの労働者が働く縫製工場の照明設備を発熱が抑えられるものに一新し、工場全体の温度を約2度下げたところ、生産性が向上して工場全体の収益性もアップし、設備投資にかかったコストも半年余りで回収することができたという事例が報告されています。

Does Temperature Affect Worker Productivity In India's Clothing Factories? : Goats and Soda : NPR
https://www.npr.org/sections/goatsandsoda/2018/07/23/629871725/why-a-drop-of-4-degrees-made-a-big-difference-for-a-garment-makers-bottom-line

この例は、インドのバンガロールにある縫製工場で確認されたもの。「Shahi Exports」という名称の企業は国内50カ所以上に縫製工場を持ち、約10万人の従業員がGAPやユニクロ、ZARA、H&Mといったブランドの衣類を生産しています。

Shahi Exportsの工場に限らず、インドにある工場の欠点の1つが「空調設備がない」という点にあります。経済が発展途上にあるインドではエアコンの普及が徐々に進んでいるとはいえ、低い利益率で稼働している衣類工場では、多額の費用をかけて空調設備を導入することは不可能に近い状況であるといえます。そのため、従業員は夏になると非常に暑くなる作業場で汗をかきながらの作業を強いられることになります。

By ILO in Asia and the Pacific

環境問題への関心が高まる中、Shahi Exportsにはクライアント企業から「作業場の照明を今使っている蛍光灯から電力消費量の少ないLED照明に変えるべき」という働きかけが寄せられています。LED照明は蛍光灯に比べて電力消費量が7分の1に抑えられるとのことですが、これを聞いたエコノミストのアナント・ナシャダム氏はあることをひらめきました。「電力が7分の1になるのなら、発熱量も7分の1になってもおかしくはない。これは作業場の温度を下げられるかもしれない」と考えたナシャダム氏は実際に工場にLED照明を導入し、作業場の気温の変化と工場の生産性の相関関係を調査することにしました。

そこから数年かけ、ナシャダム氏はミシガン大学やマサチューセッツ工科大学(MIT)のSloan School of Managementなどの研究者と共同で、26の工場で生産された製品の数量と気温のデータを収集。Shahi Exportsのマネージャーの1人であるアナント・アフージャ氏は当初、「ナシャダム氏は無駄な時間を過ごしている」と考えていましたが、結果が出る頃には「これは素晴らしい結果だ」と考え直すようになったそうです。

蛍光灯を使っていた頃の工場では、1日のうち気温がセ氏30度を超える時間帯が4分の1に達していました。セ氏30度は人間が暑さからストレスを感じる「heat stress threshold(熱ストレスしきい値)」に相当する温度で、この温度を超えると人間の体は放熱に支障をきたすようになり、活動力が低下します。工場で働いている女性のマンジュラさんは、「暑くなってくると、集中力を保つのが大変になります。強力なミシンを使っているので手が挟まれないように注意する必要がありますが、暑くなってくるとそれも難しくなります」と話しています。作業場が暑くなってくると、顔には汗が噴き出し始め、疲労が蓄積してくるために、休みを多めに取る必要が出てきます。そうなると、工場の生産性はおのずと低下します。

By Matt

そこで照明をLEDに交換したところ、マンジュラさんによると実際に作業場の温度が下がったとのこと。また、ナシャダム氏によると、働く環境が改善されたことで毎日の生産量は以前に比べてアップしたといいます。

マンジュラさんが働く工場でデータを集めたところ、なんと照明をLEDに変えるだけで気温が2度あまりも低下したとのこと。その結果、工場の生産性は上がり、利益率もアップ。またその利益により、LEDを導入する際にかかったコストは8カ月で相殺されることになったそうです。ハーバード大学の経済学者であるレマ・ハンナ氏は「この研究に本当に感銘をうけました」と述べ、大きな意義を持つものであるという見解を示しています。

ハンナ氏はこの研究が貧困な国の成長スピードが遅いという問題を解決するヒントの1つになると考えています。労働者に与えられる賃金は生産性と強く結び付いており、平均的に貧しい国の労働者は先進国に比べて生産性が低いという傾向があります。その主な原因は教育レベルと健康問題にあるのですが、同時に「貧しい国は、他に比べて暑い」という傾向も存在しているとのこと。ハンナ氏はここから、「南半球よりも北半球の経済成長が早い理由」が気温の高さにあるという見解を示しています。

また、「気候変動に対処することと経済成長の間には相反する関係(トレードオフの関係)がある」という考え方にも一石を投じるものであるとハンナ氏は指摘。環境に配慮するためには企業は利益を犠牲にしなければならないという認識に対してハンナ氏は「気候変動の対処が進んで気温が下がると、労働者の生産性が上がり、経済成長にプラスの結果を残すことにつながる」と述べています。

By ILO in Asia and the Pacific

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