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AIによる自動化が雇用の減少をもたらすとは限らない、逆に雇用が増加する可能性もある

by Strelka Institute for Media, Architecture and Design

「近年急速に発達を遂げているAIはやがて多くの仕事を自動化し、雇用を減少させるのではないか」という懸念を多くの労働者が持っています。ところが、労働の自動化は必ずしも雇用の減少をもたらすわけではなく、時には生産性を向上させるための技術が雇用の増加をもたらす場合もあるという主張もされています。

How AI automation could boost employment: The role of demand - Bits and Atoms
https://bitsandatoms.co/how-ai-automation-could-boost-employment-the-role-of-demand/

一般的には「労働の自動化は雇用を減少させる」という見方がされていますが、直観に反していくつかの産業については生産性向上のための技術が導入されて以降、雇用が増加したという事実があるとのこと。この問題についてボストン大学出身の経済学者であるジェームス・ベッセン氏は、テクノロジーの進歩が消費者の需要に対しどのような影響を与えるのかが重要なポイントだとしています。

アメリカの製造業における雇用は過去数十年で劇的に減少していますが、それ以前には急速なテクノロジーの進化に伴って雇用が増加した時期もありました。技術革新が起こった際に雇用が急激に増加し、その後で次第に雇用が減っていくこの現象は「逆U字パターン」として知られており、多くの製造業でみられるそうです。

ベッセン氏はアメリカの製造業における逆U字パターンを説明するために、産業需要の関係性についてのモデルを作り出しました。以下のグラフは上から順に綿製品・鋼材・自動車産業において、過去2世紀にわたる生産に関わる雇用の数を表したものです。実際の雇用数とベッセン氏が自身の開発したモデルから予測した雇用数はほぼ連動していて、綿製品や鋼材ではきれいな逆U字を描いており、自動車産業でも雇用増大の山場が過ぎたように見受けられます。


逆U字パターンが現れる雇用数について、ベッセン氏は「需要の価格弾力性」が大きな意味合いを持っているとしています。需要の価格弾力性とは価格の変化率に対してどれほど需要が変化するのかという反応の尺度で、価格の変動に対する需要の変動が大きければ大きいほど、その製品の価格弾力性は大きいと考えられるとのこと。逆に価格の変動に対して需要の変動が小さければ、その製品の価格弾力性は小さいということになります。

価格弾力性が大きい製品の場合、新しい技術が導入されて生産効率が上昇すると一定量の製品を生産するためのコストが低下します。生産コストの低下は価格の低下として市場に反映され、消費者はこれまで「欲しいけど価格が高いので十分に買えなかった」製品をたくさん買えるようになり、製品の需要が増して全体の生産量が向上するという結果が生まれるそうです。需要の増大が技術革新による生産効率上昇を上回れば、生産プロセス自動化による雇用削減が進んでいてもそれを上回るスピードで雇用が増大し、これが逆U字パターンにおける雇用の上昇部分となっています。


一方で生産効率が上昇すればするほどそれ以上のコスト削減は難しくなり、価格低下のスピードも鈍ります。これによって製品の価格弾力性は次第に低下する傾向にあり、やがて生産効率が上昇してもそれを上回るほどの需要増大が発生しなくなるそうです。これにより全体の雇用が減少し、逆U字パターンの雇用減少部分を作り出すとのこと。

綿産業における過去の技術革新は、19世紀の間に布を織るための労働力のうち98%を自動化しました。ところが、大幅に生産量あたりの労働力が減少したにも関わらず、実際の労働者はこの期間中に数十年間にわたって増加を続けています。19世紀中に綿織物の労働生産性は30倍に上昇した一方で、綿布の消費量は100倍になったことをベッセン氏は指摘。技術革新が始まった時点で綿布はかなり大きな価格弾力性を有していたため、このように大幅な生産効率増加と雇用数増加を両立できたそうです。

by John McLinden

AIが仕事を置き換えるという議論になると、多くの場合で「AIは大幅に生産性を増加させる特効薬だ」「AIは人々の仕事を奪う脅威だ」といった話題になりがちです。しかし、ベッセン氏は技術変化のスピードだけが雇用に影響するのではなく、「生産効率上昇に伴う価格変化と、それによる需要の変化」も加えて判断しなければならないとしています。

もしもAIによって生産効率が上昇する分野が大きな価格弾力性を有している場合、価格の低下にしたがって需要が増大して生産量増加を迫られ、これまで以上に雇用数が増える結果をもたらします。一方で価格弾力性の小さい分野においては、AIによる生産性の上昇が雇用数の減少に結びつくかもしれません。したがって、AIがもたらす雇用への影響を理解するためには、生産性の上昇がもたらす需要の変化を理解することが必要不可欠であるとまとめられています。

by A Health Blog

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in メモ,   ソフトウェア, Posted by log1h_ik

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