DARPAが考える将来のエレクトロニクス業界とは?
アメリカ国防高等研究計画局(DARPA)は、2017年から世界を変革するような次世代のエレクトロニクスやマイクロシステムの技術開発プロジェクトに資金を投資するElectronics Resurgence Initiative(ERI)プログラムを推進しています。記事作成時点でその予算額は15億ドル(約1700億円)に達しており、新技術開発と実現に向けて積極的に投資する方針を掲げています。DARPAでERIの責任者を務めるビル・チャペル氏が、ERIが掲げる3つの取り組みについてIEEE Spectrumのインタビューに答えています。
DARPA Plans a Major Remake of U.S. Electronics - IEEE Spectrum
https://spectrum.ieee.org/tech-talk/computing/hardware/darpas-planning-a-major-remake-of-us-electronics-pay-attention.html
IEEE Spectrum(以下Q):
ERIのような大規模なプロジェクトを進めるきっかけとなったアメリカのエレクトロニクス業界の課題とは何ですか?
チャペル氏:
現代において、SoCなどの集積回路製品がどんどん複雑になってきており、設計、製造などにかかるコストが高くなっています。これは製造する製品が複雑になるほど大規模な設計チームが必要となるからであり、多大な人件費が結果的に製品の価格にも反映されてしまいます。この結果、商業全体の売上に影響を与えるだけでなく、防衛費も高額になってしまうのです。
Q:
エレクトロニクス業界がこの「高コスト化」を解決できない問題は何ですか?
チャペル氏:
業界自体は問題解決能力に秀でており、問題を解決できないわけではありません。しかし、業界が必ずしも最善策を取り続けられるわけではないのです。そこで、私たちが大きな問題に取り組むコミュニティを形成し、個々の企業が個別の問題に取り組めるようにしています。
Q:
DARPAはERIで3つの取組みを行っていますが、1つ目に「チップの構造」を挙げています。これはなぜですか?
チャペル氏:
チップの構造に関しては、より何かに特化したチップを生み出したいと考えています。わかりやすく言えば、アプリケーションを自体をチップにのせてしまうというものです。実際、この分野は機械学習やディープラーニングの分野でホットな研究テーマとなっています。しかし、私たちの理想はAIだけに適用するようなものではなく、もっと幅広い分野にも適用したいと考えています。
Q:
「幅広い分野」ですか。具体例のようなものはありますか?
チャペル氏:
例としては、Software-Defined Hardware(SDH)と呼ばれる「ソフトウェアの命令に従ってハードウェアが振舞いを変更する」ものや、さまざまな分野の処理に対応して高い性能を出せる「ドメイン特化型SoC」などがあります。私たちが考えている最終目標は「再構成可能アーキテクチャ」です。これはハードウェアが「画像処理」や「パターンマッチング」など用途に応じて柔軟にチップの特性自体を変えてしまうというもので、実現が非常に難しいものです。
現実問題として、求められる機能があらかじめわかっていれば、特定の機能に特化したチップを作ることはできます。しかし、さまざまな用途で使用して、どの分野の処理でも専用チップ並の高い性能を引き出すことは非常に困難なことなのです。
Q:
2つ目の取り組みである「設計」では何を計画しているのですか?
チャペル氏:
私たちが最初に行ったプログラムは「CRAFT」です。これは2~3人レベルの小規模な設計チームでも、100人の大所帯の設計チームが作り出すような高度なチップと同等のチップを設計できるようにするものです。このプログラムは実際にカルフォルニア大学バークレー校のChiselチームが研究を行い、実現することができています。
Q:
ERIの第3の取り組みである「材料と統合」では何を計画していますか?
チャペル氏:
DARPAで行っているプログラムはCHIPSと呼ばれており、簡単に言えば、非常に大きな設計を細分化するというものです。実際、あらゆる機能が複雑に絡み合って1つの巨大なチップとして存在しているものがありますが、これを機能ごとに小さな部品に分けることと言えば、わかりやすいでしょうか。小さな部品に分けることはデメリットがありますが、当然メリットも存在します。
それは設計チームが小規模である場合、必要な部分のみを設計して、他の部分は過去に設計された部品を再利用すれば最小限のリソースでチップを設計することが可能であるからです。もちろん各部品がモジュール化されているため、巨大なチップとして動作していたときより性能が低くなることは否めませんが、私たちは可能な限りモジュール化による遅延を最小限に抑えたいと考えています。
Q:
ERIはエレクトロニクス業界だけでなく、エンジニアにも影響を与えそうですね。これが目標なのでしょうか?
チャペル氏:
私たちの目標はエレクトロニクス業界を変化させて、国防総省だけでなくアメリカにとって大きな利益を得ることです。私たちの活動によってエレクトロニクス業界が活気にあふれ、よりダイナミックな業界になることを願っています。
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