タイの洞窟で遭難した少年たちはどうすれば無事に脱出できるのか?
タイ北部の洞窟でサッカークラブの少年12人とそのコーチが行方不明となり、事故発生から9日後に洞窟の奥にいたところを発見されました。少年たちは全員無事でほっと胸をなで下ろしたのもつかの間、複雑に入りくんでいる上に大雨で冠水した洞窟からどうやって脱出できるのかが問題となっています。
How Scuba Divers Will Rescue Soccer Team Trapped in Thai Cave
https://www.livescience.com/62989-thai-cave-escape-plan.html
How Long Can Humans Survive in a Cave?
https://www.livescience.com/62983-thai-soccer-team-human-survival-caves.html
タイの洞窟で行方不明の少年ら13人が発見されたときの様子はムービーで公開されていて、記事作成時点で2200万回以上も再生されています。
タイの洞窟で行方不明の少年ら13人発見時の映像がFacebookで公開中、1000万回以上も再生される - GIGAZINE
7月のタイは雨期であり、一日に何度も大雨が降る時期です。そのため、冠水によって洞窟の入り口がふさがれてしまい、少年たちは洞窟から出られなくなってしまったというわけです。少年たちを洞窟から救いだそうとしても、洞窟内にたまった水は濁っていて視認性は極めて悪い上に、たまっている水は激しい流れをみせているそうです。入り口から少年たちがいるところまで、およそ2.5キロメートルもあるとのこと。これをくぐり抜けるためには「ケイブダイビング」と呼ばれる難度の高いダイビング技術が求められます。
水を潜って洞窟を脱出するのは、狭くて暗い水中の迷路をクリアするようなもの。ダイビング技術や経験がない少年たちが水の中でもパニックを起こさず落ち着いていられるかどうかが重要になります。経験豊富なケイブダイバーであるリチャード・ブラック氏は「13歳の少年たちは、洞窟をダイビングすることで自分たちが死ぬ可能性をまったく理解できていませんが、その無理解が逆にポジティブに働くかもしれません」とコメントしていて、死をイメージできないことが逆に恐怖によるパニックを引き起こさないのではと指摘しています。
ブラック氏は、少年たちが無事洞窟をくぐり抜けるためにはまず、水中での呼吸の仕方などの基本的な潜水訓練を行いつつ、少年1人につきベテランダイバーが3~4人は付き添うことで1~2日で全員を救出することが可能だろうと推測しています。ただし、依然として水の流れは強く、大雨によって水量も変化するため、事態が突然悪化する可能性を覚悟しなければならないとブラック氏は警告しています。
なお、水は入り口からだけではなく、目に見えない場所からも多く流入しているため、ポンプで水を吸い出すこともできないことが判明しています。BBCによると、ダイバーによる少年たちの救出計画が不可能であれば、雨期が終わる9月~10月まで待つ可能性も十分あり得るとのこと。同時に周辺の山から洞窟に繋がる別の道もないか探索も行われているそうです。
イタリア・カリャリ大学の生化学者アンドレア・リナルディ氏は、人間が洞窟でどのように適応して動くかを研究しています。リナルディ氏はLive Scienceの取材に対して「酸素は数百メートル下の洞窟にも豊富にありますが、二酸化炭素のたまり場となっているようなくぼみもあります。また、洞窟が乾燥していると空気中にカビの胞子が漂いやすくなりますし、熱帯にある洞窟ではコウモリのフンが分解され空気中のアンモニア濃度が異常に高くなることもあるので、呼吸には注意が必要です」と説明しています。
by David Denis
寒い地域であれば、水に濡れても日に当たれないため、低体温症を起こす恐れもありますが、タイの気候は熱帯で、洞窟内の気温が20度を下回ることはないと考えられるため、それほど心配はないだろうとリナルディ氏は推測しています。
問題になるのが食糧と水の確保。洞窟の中には人間の食糧になるようなものはほとんどありません。しかし、リナルディ氏は「人間は何も食べなくても数週間、あるいは数カ月生き残ることが可能です」と主張しています。一方で、食糧よりも切実な問題となるのが「水」です。洞窟内にある水はほぼ泥なので、ろ過装置がなければ飲むことが不可能。洞窟内の壁や鍾乳石をしたたり落ちてくるような水でさえ、ちゃんとろ過をしなければ安全とはいえないとリナルティ氏は説明しています。なお、タイの洞窟に閉じ込められているサッカー少年たちはダイバーから食糧と水を受け取っているとのことで、この部分については心配ないようにも思えます。
洞窟に閉じ込められたという物理的な問題に加えて、心理的な問題もあります。暗闇の中で食糧もほとんどない状態で閉じ込められるという状況は精神的にかなりの負担を強いられます。救助隊がサッカーチームの少年を発見したときの第一印象では、少年たちは特にパニックを起こしていなかったとのことで、リナルディ氏は「閉じ込められている少年たちがチームメイトで、一人で孤立していないことが救いでした」と語っています。
なお、サッカーチームのコーチを務めるエカポムさんは10年間僧侶を務めていて、発見されるまでの9日間、少年たちに体力を消耗しないように指示し、めい想を勧めていたと報じられています。今回、少年たちがパニックを起こさず、精神的に安定していたのは、エカポムさんの判断が功を奏したと考えられます。BBCによれば、閉じ込められている少年らが外にいる家族と話すことができるよう、電話回線が洞窟の中に設置する予定だとのことです。
洞窟から少年たちがいつ救出されるのかを、世界中の人たちが固唾(かたず)を飲んで見守っています。どんな方法であれ、無事に洞窟から脱出し、少年たちが一刻も早く家族のもとに帰ることができるよう祈るしかありません。
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