1世紀以上もアメリカ人に愛され続ける絵画「ポーカーをする犬」とは?
アメリカの芸術家キャシアス・マーセラス・クーリッジが描いた、「ポーカーをする犬」シリーズとして知られる一連の絵画は、20世紀初頭に発表されてから1世紀にわたって多くの人々に愛されています。2006年のオークションではシリーズの中の「きわどいブラフ(A Bold Bluff)」「ワーテルロー(Waterloo、『惨敗』の意)」という2枚がセットで出品され、59万400ドル(約6100万円)で落札されて話題になりました。そんな「ポーカーをする犬」について、芸術作品をオンライン上で閲覧できるサービスArtsyがまとめています。
Why This Painting of Dogs Playing Poker Has Endured for over 100 Years - Artsy
https://www.artsy.net/article/artsy-editorial-painting-dogs-playing-poker-endured-100-years
1844年に生まれたクーリッジ氏はフィラデルフィアの小さな町で育ち、1868年から1872年にかけて薬屋や画家として働く一方、銀行や新聞の創設を試みるなど、非常に活発に活動していました。クーリッジ氏は1873年にロチェスターへ引っ越し、本格的に広告などで使用する絵画を描く広告画家として活動を始めます。19世紀後半から20世紀前半にかけてアメリカ企業の広告投資は非常に大きく成長しており、クーリッジ氏が広告画家を志したタイミングは、ちょうど広告投資拡大の波にのる絶好の時機だったといえます。
クーリッジ氏は画家として特別な教育を受けたわけではなかったものの、直感的に「人々がどんなものを見て笑うのか」ということを感じ取る才能があり、蚊がオペラを上演する絵画などを描きました。また、人物の顔の部分に丸く穴が空いていて、通りすがりの人が顔を入れて写真を撮れる顔ハメ看板もクーリッジ氏の発明だそうです。
1894年、クーリッジ氏は「ポーカーゲーム(Poker Game)」というタイトルで、犬がポーカーをしている絵画を発表しました。これは「ポーカーをする犬」シリーズには含まれていないものの、クーリッジ氏が「犬がポーカーをしているシーン」を描いた初期の作品として愛されています。「ポーカーゲーム」の中では、犬たちがまるで人間のようにメガネをかけており、相手の真意を探るかのようにメガネの上から相手をにらみつけたり、笑っているようにも見える余裕の表情で相手を見つめ返したりしています。
「犬をまるで人間のように描く」というコンセプト自体はクーリッジ氏の発案というわけではなく、それ以前から存在したものでした。1840年にはエドウィン・ランドシーアというイギリスの画家が、「法律を制定する」という名前の犬を擬人化した絵画を描いています。
この絵画は「ポーカーをする犬」シリーズに影響を与えたとしてしばしば話題になりますが、クーリッジ氏の絵と比べると犬は厳粛な感じで、親しみが感じにくい部分があります。ランドシーアが「人間を動物に擬獣化」したのだとすれば、クーリッジ氏は「動物を人間に擬人化」したのだとArtsyは説明しています。
クーリッジ氏が「ポーカーをする犬」シリーズを描いたのは、1903年に広告会社のブラウン&ビーグロウと契約を交わし、広告用のカレンダーの絵を描くように依頼されたのがきっかけでした。葉巻の広告に使われた「ポーカーをする犬」の絵は全部で16枚描かれ、アメリカ人の心を捉えたのか広告カレンダーは大きな成功を収めました。
アメリカ中の家庭で見られるようになったクーリッジ氏の絵画は、非常に愛らしい犬たちの表情やしぐさが特徴です。「必要な友達」という名前の絵画では、白いブルドッグが脚でクラブのエースを挟み、隣の友達に頑張って渡そうとしているシーンが描かれています。
また、1903年に描かれた「きわどいブラフ」と題された絵画では、セントバーナードが「2のペア」だけで大きな賭けに打って出ており、正面の相手をブラフでゲームから降ろそうとしています。
1906年には、「きわどいブラフ」の続きである「ワーテルロー」が描かれました。「ワーテルロー」の中では、見事にブラフを成功させたセントバーナードが大喜びし、他の犬が開かれた2のペアを驚いた顔で見つめているシーンが描かれています。ブラフで降ろされてしまった犬の手札には3のペアがあり、降りていなければ勝っていたのです。
クーリッジ氏の絵画は「安っぽい、俗っぽい」といった評価を受けがちですが、ユーモアにあふれた情景を描いた一連の絵画は、今でも多くのアメリカ人の心に残っているのです。
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