ゲノム編集技術「CRISPR/Cas9」による治療はガンのリスクを高める可能性があると研究者が指摘
ゲノム編集技術のCRISPR/Cas9は、遺伝性疾患の安全な治療の実現が期待されています。しかし、カロリンスカ研究所のバーンハード・シュミアー氏らの研究チームによると、CRISPR/Cas9を使ったゲノム編集にはガンの発症リスクを高めてしまう可能性があるとのことです。
CRISPR–Cas9 genome editing induces a p53-mediated DNA damage response | Nature Medicine
https://www.nature.com/articles/s41591-018-0049-z
Genome-editing tool could increase cancer risk | News | News | Karolinska Institutet
https://ki.se/en/news/genome-editing-tool-could-increase-cancer-risk
CRISPR/Cas9は事前にプログラミングしておくことで、ゲノム上の正確な場所に移動させることができ、移動した位置にあるDNAを切断することができます。この技術によりDNAの不良部分を修正することが可能とされており、2018年現在ではアメリカや中国において、がんの治療に実際に使用できるか、臨床試験が行われています。
カロリンスカ研究所のシュミアー氏らの研究チームは、CRISPR/Cas9の治療効果をさらに高めるための研究を行っており、ヒト細胞にCRISPR/Cas9を使用した実験を行っています。
研究チームは、CRISPR/Cas9がヒト細胞のDNAを切断する時に細胞の成長を制御するp53遺伝子が活性化することを確認。また、このp53遺伝子が活性化するとCRISPR/Cas9によるゲノム編集の効率が下がってしまうことも確認しました。
研究チームはこの実験から、CRISPR/Cas9の治療効果を高めるにはp53遺伝子の働きを抑制する必要があることを示しています。しかし、p53遺伝子の活動を抑制すると、DNA切断後の細胞の成長を制御できなくなることにつながるため、最終的にこの細胞がガンの原因になってしまうリスクがあることも研究チームが指摘しています。
シュミアー氏は「CRISPR/Cas9は驚くほど効果的な治療を行える可能性を持っています。しかし、他の治療法と同様に副作用の存在も認識する必要があります」と語り、CRISPR/Cas9の可能性を認めながらもリスクの存在を指摘しています。このため、シュミアー氏は「CRISPR/Cas9による治療の安全性を高めるには、p53遺伝子のメカニズムを正しく理解することが重要です」と述べています。
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