アメフト選手の脳しんとうを防ぐ「安全なヘルメット」の開発に向けてNFLがヘルメット開発用FEモデルを公開

プレー中に激しい接触行為が発生するアメリカンフットボールでは、衝突やタックルに繰り返しさらされることで、脳が変化するほどの影響を受けることが報告されています。アメリカのプロリーグであるNFLの元選手のうち、なんと99％が脳に重大な障害を負っているとのことですが、事態を重く見たNFLは競技の安全性を向上させることを目的に、開発者向けの「安全なヘルメット」開発キットを公開しました。

Finite Element Models: New Tools for Innovation in Football Helmet Design - NFL Play Smart, Play Safe
https://www.playsmartplaysafe.com/resource/finite-element-models/

NFLはFootball Research, Inc. (FRI)に6000万ドル(約66億円)もの資金を提供し、Engineering Roadmapと呼ばれる5年間のプロジェクトをスタートさせました。このプロジェクトはNFL選手の頭部への外傷に対する理解を向上させ、ヘルメットメーカーやその他の企業、起業家や大学などが協力して安全性の高い防護器具を開発することを目的にしています。

Engineering Roadmapプロジェクトに協力するのは開発者だけではなく、生化学系のエンジニアリングサービスを提供する企業であるBiocoreも含まれています。Biocoreは開発に必要なエンジニアリングサービスと、バイオメカニクスの専門知識を提供し、フットボールにおいてケガが発生するメカニズムや、ケガの影響を軽減する方法の探求について協力するとのこと。

Engineering Roadmapプロジェクトは、バージニア大学・ウェイクフォレスト大学医学部・スウェーデン王立工科大学・ウォータールー大学らと共同して、オープンソースのヘルメット開発用有限要素法(FE)モデルの開発を行ってきました。FEモデルは物体を有限の要素に分割し、構造全体をモデル化することで開発された計算ツールです。構造をFEモデルにすることにより、構造に対する設計変更の効率的な分析が容易になります。すでに、FEモデルは航空宇宙産業や自動車産業などの分野で活用されています。

フットボールのヘルメットにおけるFEモデルの活用は、記事作成時点で傷害予防研究および効率的な防護ヘルメット開発のために公開されているとのこと。Biocoreは最新の脳しんとうメカニズムに関する知識を活用して、4つの現代フットボール用ヘルメットについての技術仕様と実験データのモデルを開発しました。これらのデータは現実世界におけるヘルメットとヘルメットのぶつかり合い、ヘルメットと地面の衝突、ヘルメットとプレイヤーの肩との接触などにおける衝撃を予測するのに役立つとされています。

これらの計算モデルはヘルメットメーカー・デザイナー・起業家・大学といった人々に対し、オンライン上で公開されています。FEモデルについての専門知識と研究能力がある大学や民間企業は、Biocoreが随時更新する最新の計算モデルを活用し、ヘルメットの開発に取り組むことが可能だとのこと。

by Johann Schwarz

外部に資金を提供してクラウドソーシング的な手法でフットボールヘルメット開発用のFEモデルを開発することは、NFLが促進する競技の安全性向上に関する取り組みの一つに過ぎません。2017年、NFLエンジニアリング委員会の会長であるジェフ・クランドル博士は、競技でプレイヤーに脳しんとうを引き起こすケースを調査するため、専門家による包括的なビデオレビューを行いました。

専門家らは2015年と2016年におけるNFLの試合で確認された、459件の脳しんとうが発生したシーンのビデオを分析しました。そして、衝突時の姿勢や角度により、どの程度脳しんとうの深刻さに影響が出るのかといった問題について検討したとのこと。

競技中に発生した脳しんとうなどのケガに関するデータが増えると、ヘルメットを含むさまざまな防護器具の設計に役立ちます。FRIはEngineering Roadmapプロジェクトを通してデータの共有とヘルメットの安全性向上など、プレイヤーを保護するための取り組みを促進していくとしています。

by Tristan Seifert