サイエンス

格闘家の過酷な減量はどれほど危険なのか?


総合格闘技(MMA)やボクシングの世界は体重ごとに細かく階級が分けられており、対戦する選手は試合前日や当日に計量し、試合予定の階級に適合した体重かどうかがチェックされます。通常時の格闘家の体重は対戦する階級より重いことが多いため、試合前になると計量オーバーにならないように極端な減量を行って調整しており、「減量が終われば試合の半分が終わった」と言われるほど。そんな試合前の過酷な減量がどれほど危険なのかを、シェフィールド・ハラム大学でスポーツ・運動生理学講師を務めるクリストファー・カーク氏が説明しています。

Mixed martial arts and the danger of extreme weight cutting
https://theconversation.com/mixed-martial-arts-and-the-danger-of-extreme-weight-cutting-162569

体重ごとに細かく階級が別れている格闘技では、格闘家は自分の体格やリーチ、パワーを生かすためにより低い階級で戦おうとするのが一般的です。そのため、通常時は戦う階級の制限よりも重い体重を維持しておき、計量を行う時だけ階級の上限に引っかからない体重に落としています。落とす体重は選手や狙う階級によってまちまちですが、通常時から10kg以上も減量するケースも少なくありません。


試合前の減量には、試合前の数週間で食事量を減らしたり練習を増やしたりする「長期的な減量」と、極端な食事のカットや断食、サウナや厚着してのトレーニングによる脱水などを行う「急速な減量」の2段階が存在します。これらの組み合わせで目的の体重まで減量し、計量をクリアした後は1日でなるべく体重を戻すために、消化によく炭水化物たっぷりの食事をとり、大量の水分補給をして体調を整えるとのこと。

格闘技以外にも競馬などのスポーツで減量が行われますが、MMAやボクシングではより多くの体重を短期間で落とすため、特に減量が過酷と言われています。極端に食事や水分を抜く減量法は脳や神経系の機能を制限するだけでなく、筋肉を動かす速度や力にも悪影響を及ぼすと報告されており、運動のパフォーマンスに加えて健康上の問題も引き起こす可能性があるとカーク氏は指摘しています。


長期的および急速な減量による影響を調べるためにプロのMMA選手を追跡した研究では、対象の選手は試合前の8週間で17kgもの減量を行い、そのうち7kgは計量前の36時間で脱水して減量しました。この減量によって、選手の体内では健康に関与するテストステロンの生産量が深刻なレベルまで減少し、ストレスに応じて分泌されるコルチゾールが急激に増加したと研究チームは報告しています。コルチゾールはエネルギー源である糖を生み出すために筋肉を急速に分解するため、減量はせっかく付けた筋肉を減らしてしまうとのこと。

また、選手の血中では尿素およびクレアチニンナトリウムの濃度が非常に高くなっており、これは腎臓が機能不全を起こしていることを示唆しているそうです。カーク氏は、「これらの調査結果は、選手がプロとしての戦いを見せるのではなく、病院のベッドを予約する原因になるでしょう」と述べています。

実際に格闘技の世界では、過酷な減量によって選手の健康に悪影響が出ているとの調査結果が多数報告されています。2017年の研究では、イギリスのMMAイベントにおいて43%の選手が競技前に脱水を起こしていたことが示されたほか、1997年にはアメリカの大学に所属する3人のレスラーが減量により死亡しました。こうした事態を受け格闘技団体は減量に関するルール策定に動き出しており、アメリカの大学レスリングでは減量できる体重の上限を設定したり、最低体重を制限したりといった対策が取られました。

しかし、依然として多くの格闘技選手は試合前の過酷な減量を続けており、2015年にはMMA選手のヤン・ジェンビン氏が計量前に脱水症状で死亡する事故が起きたほか、UFCに所属するユリア・ストリアレンコ氏が計量時に失神する様子が撮影されたこともあります。また、何度も過酷な減量を行ったこととの因果関係は不明ですが、引退後の格闘家は肥満や摂食障害、腎臓障害になりやすいとのこと。

Julija Stoliarenko just fainted on the scale #UFCVegas22 pic.twitter.com/3PjNMUGxFf

— The Schmo (@TheSchmo312)


多くの選手やコーチは「たくさん減量して階級を落とした方が有利だ」と考えていますが、プロのMMA選手を分析した2020年の研究では、落とした体重や計量後に回復した体重は試合の勝敗に関連しないことが判明しています。また、別の研究では体重をたくさん落とした選手は減量が少なかった選手より試合に負けやすいことが示されたほか、試合直前に激しいエネルギー摂取制限を行わない選手の方が勝利する可能性が高いとの研究結果もあります。

カーク氏は、試合前に過酷な減量をする慣行を変えるには、業界に関わる全ての人が積極的な対策に取り組む必要があると指摘。国際総合格闘技連盟(IMAAF)は2021年5月、極端な減量を防ぎ、より安全で効果的な体重管理慣行を促進するためのタスクフォースを設立しました。「このような広範な文化的変化は、ただちに効果をもたらすわけではありませんが、関係する全選手の長期的な健康に違いをもたらすでしょう」とカーク氏は述べました。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
ブラジルの政治家2名が論争を「MMAファイト」で解決、四角いリングで3ラウンドの殴り合い - GIGAZINE

400人の孤児に格闘技術をたたき込んで過酷な戦いをさせる中国のMMAクラブとは? - GIGAZINE

格闘技の判定勝ちは「とにかくたくさん攻撃を繰り出した方が有利」と判明 - GIGAZINE

格闘技の殴り合いを毎秒5000コマでハイスピード撮影するとこんな感じに - GIGAZINE

ダンスダンスレボリューションで50kg以上のダイエットに成功し心臓移植の危機を乗り越えた男性 - GIGAZINE

ゼロカロリーのダイエット飲料は特に「女性と肥満の人」の食べ物への欲求を増大させてしまうとの研究結果 - GIGAZINE

体型を変えるためのダイエットを放棄して「直観に従って食べる」ことのメリットとは? - GIGAZINE

in サイエンス, Posted by log1h_ik

You can read the machine translated English article here.