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抗生物質が効かない耐性菌も簡単に殺してしまう最強のウイルス「バクテリオファージ」とは?


バクテリオファージ」とは、細菌に感染して殺すウイルスのこと。遺伝子の数が他の生物に比べて少なく、ゲノムが解読されているためモデル生物としても用いられるバクテリオファージについて解説したムービーを、日常のさまざまな疑問を科学的アプローチで解説するKurzgesagtがYouTubeに公開しています。

The Deadliest Being on Planet Earth – The Bacteriophage


地球上では、私たちの知らないところで毎日数兆もの生物が殺されています。


大量に殺されている生物はバクテリア。そしてそのバクテリアを殺している犯人が、バクテリオファージと呼ばれるウイルスです。


バクテリオファージは非常に人工的な雰囲気を与える、奇妙な外観をしており……


頭部は20の面と30の辺で構成されたサイコロのような形をしています。


頭部にはウイルスの本体ともいえる遺伝物質が含まれていて……


頭部から延びる尾の先に、繊維質の脚を備えています。


バクテリオファージは非常に多く地球上に存在しており、細菌を含めた他のすべての生物を合わせた数よりも、バクテリオファージの数のほうが多いとのこと。


生物が存在する場所であれば地球上のどこにでもバクテリオファージは存在しており、人間の手や腸、まぶたにも数十億という単位で生息しているといわれています。


バクテリオファージが1日に数兆もの生物を殺していると知れば、恐ろしく感じるかもしれませんが……


バクテリオファージが殺すのは細菌だけなので安心してOK。


海に住む細菌のうち、なんと1日あたり40%がバクテリオファージによって殺されているとのこと。


バクテリオファージの本体は頭部に存在する遺伝物質であり、宿主となる細菌を利用することでしか増殖できません。


バクテリオファージには種類があり、それぞれが特定の細菌を狙って襲撃します。


バクテリオファージは巡航ミサイルのように特定の細菌のみを狙い……


尾の先から注射針のような器官を出して、細菌の表面に針を刺します。


針を刺すとバクテリオファージは細菌内に遺伝情報を注入し、細菌内に新しいバクテリオファージに必要な器官を作り出すとのこと。


わずか数分の内に、細菌内は増殖したバクテリオファージで満たされます。


新しいバクテリオファージは細菌を溶かしてしまう酵素を放出し、細菌に穴を開けて飛び出します。こうして放出されたバクテリオファージは、再び感染する細菌を探してさまようというサイクルを繰り返しているのです。


そんなバクテリオファージに注目しているのが、私たち人間です。


近年、何百万という数のバクテリオファージを体内に注入するという試みを、人間は真剣に検討する必要性に迫られています。


かつて私たち人間は、ちょっとした切り傷を負ったり不衛生な水を飲んだりしただけで、すぐに死んでしまうという時代がありました。


細菌こそが人間にとってのバクテリオファージであり、細菌による感染症は多くの人々を死に追いやってきたのです。


ところが20世紀前半になって、人類は抗生物質という強力な対抗手段を入手しました。


抗生物質は細菌に対し非常に強力であり、もはや細菌は恐ろしい存在ではなくなったかにみえました。


高齢者や体力の弱った人以外で、細菌によって死亡することはほとんどなくなりました。


私たちは深刻な症状でなくても気軽に抗生物質を使用するようになり、細菌の恐ろしさを忘れてしまったのです。


ところが、細菌は進化する生物であり……


やがて抗生物質に耐性を持つ、抗生物質耐性菌が登場します。抗生物質耐性菌はほぼすべての抗生物質に対する耐性を備えた、超強力な細菌です。


抗生物質耐性菌による年間死者数は年々増加しており、2050年になると抗生物質耐性菌による死者数がガンによる死者数を超えると予測されているとのこと。アメリカではすでに年間2万3000人が抗生物質耐性菌によって死亡しています。


私たちは再び、切り傷や風邪が致命傷となる時代に逆戻りしつつあるのです。


バクテリオファージは、「体内に注入することで細菌を殺し、感染症を治療できるのではないか」として抗生物質耐性菌に対抗する新たな手段として注目を集めています。


人間の体にウイルスであるバクテリオファージを注入することは、少し不安に感じられるかもしれませんが……


人間の細胞は細菌とは全く構造が違うため、バクテリオファージに対する完全な免疫があるといえます。人間は日常的に数十億ものバクテリオファージと触れ合っていますが、バクテリオファージによる悪影響を受けることはありません。


抗生物質は「絨毯爆撃」のように腸内の有益な細菌まで見境なく殺してしまいますが……


バクテリオファージは誘導ミサイルのようなものであり、特定の細菌のみを攻撃することが可能。


「抗生物質耐性菌と同様に、細菌もバクテリオファージに耐性を持ってしまうのではないか?」と考える人もいるかもしれません。


しかし、バクテリオファージもまた、細菌の進化に応じて進化するのです。両者は数十億年にわたる争いを続けていますが、今のところバクテリオファージが優勢。


万が一、細菌がバクテリオファージに耐性を持つようになったとしても……


今度は抗生物質を用いて細菌を攻撃すれば、細菌をバクテリオファージと抗生物質の板挟みに追い込むことができるとのこと。


バクテリオファージによる細菌への効果は、すでに実証されています。アメリカでは心臓手術で利用した人工血管から、緑膿菌と呼ばれる抗生物質に強い耐性を持つ細菌が感染した男性に対し…


バクテリオファージと抗生物質を同時に注入するという治療を行いました。


その結果、数週間後には感染症が治まり、退院することができたそうです。


残念ながら、現段階ではバクテリオファージによる治療は研究段階であり、実用には至っていません。製薬会社は数十億ドル(数千億円)の投資に対して消極的であり……


政府もバクテリオファージによる治療に対し、公的な認可を下していないとのこと。


しかし、2016年には大規模な臨床実験が行われており、着実にバクテリオファージを使った新たな治療法の研究は進んでいます。


抗生物質耐性菌は人間にとって大きな脅威ですが……


地球上で最も破壊的な存在であるバクテリオファージを用いることで、抗生物質耐性菌の脅威に打ち勝つことができるかもしれないのです。

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in サイエンス,   生き物,   動画, Posted by log1h_ik

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