チリ産のサケは抗生物質まみれで超耐性菌「スーパーバグ」の温床になる危険性


抗生物質に耐性を持つ細菌「スーパーバグ」が猛威を振るえば人類に大きな脅威になることが指摘されています。抗生物質の乱用がスーパーバグを生み出しているといわれる中で、家畜に投与される数倍もの量の抗生物質がチリの養殖サケに投与されており、スーパーバグを生み出す温床になりかねないと指摘されています。

Chile’s salmon farms may use more antibiotics than any other meat industry. That’s a big problem. - Oceana
https://oceana.org/blog/chiles-salmon-farms-may-use-more-antibiotics-any-other-meat-industry-s-big-problem/

サケの養殖はノルウェーが世界1位でチリは世界2位。価格の安いチリ産のサケは世界中で需要があり、日本のスーパーでもよく見かけます。しかし、2017年に出されたOceanaの調査報告によるとチリのサケ養殖場では、サケ1トンあたりに最大950グラムの抗生物質が投与されているとのこと。ノルウェーではサケ1トンあたりに投与される抗生物質の量はわずか0.17グラムであることから、チリの養殖サケに投与される抗生物質がどれほど多いのかがよくわかります。なお、抗生物質の大量投与によるスーパーバグ問題でしばしばやり玉に挙げられる養豚所でさえ、豚1トン当たりに投与される抗生物質の量は172グラムであることから、チリ産養殖サケが「抗生物質漬け」にあることがよくわかります。

抗生物質の量もさることながら、サケ養殖所の形態がスーパーバグの温床になりかねないという構造的な問題も指摘されています。チリのサケ養殖所では、円形の網で覆ったケージに大量のサケが飼育され、エサで大きく育てられます。このため、サケ同士が密集した養殖所では、サケ同士の接触が多く、ひとたびスーパーバグが発生した場合に、瞬く間に広がってしまうとのこと。スーパーバグ自体が異なる細菌同士の接触から新しい遺伝的変異が起こって発生すると考えられていることから、抗生物質入りのエサが与えられ、その他の消毒用の化学物質もまき散らされ、糞便まみれになるというケージ内の環境は、「スーパーバグを作り出すための最高のレシピ」だとOceanaは指摘しています。


チリのサケ養殖所で大量の抗生物質が用いられるようになったのは、数年前に「Piscirickettsiosis(ピスリケッチア症)」と呼ばれる集結性細菌性疾患を持ったサケが大量発生したことが原因です。これに対処するためにflorfenicol(フロルフェニコール)という動物用の抗生物質が大量投与されているとのこと。チリのパタゴニア地方に住むエッセイストの菊池木乃実さんによれば、地元のチリ人は決してチリ産のサケを食べないそうです。

このような抗生物質まみれの現状が知られるようになって以降、アメリカの高級スーパーのWhole Foodsではヨーロッパ諸国で養殖されたサケのみを取り扱うなど、チリ産サケを排除する動きが起こっています。しかし、チリ産サケの切り身の購入を避けることで自己防衛をしようとしたとしても、加工食品への原産国表記は非常に緩く、サケにソースをかけるだけで産地がうやむやになってしまうため、チリ産を完全に完全に避けるのは困難だとのこと。レストランの食材の産地を完全に把握することが不可能であることから、「チリ産サケを絶対に口にしない」ということは「サケ自体を食べない」限り不可能だともいえます。

チリ産のサケは安価であるため輸出先は世界中に広がっています。人から人へと感染するタイプのスーパーバグが発生した場合、寿司を愛する人が海外旅行に出かけるだけで世界中に感染経路が広がってしまうそうで、感染を食い止めることが難しいとのこと。チリのサケ養殖業界に対して情報の公開性を求め、抗生物質の使用を抑制するよう粘り強く圧力をかけ続けるしか有効な方法がないそうです。

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in サイエンス,   , Posted by darkhorse_log

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