ダークマターの正体かもしれない謎の粒子「アクシオン」を検出する最新機器の開発に成功
by NASA Goddard Space Flight Center
ダークマターとは宇宙空間の約25%を占める仮説上の物質であり、間接的に存在を示唆する観測結果は得られているものの、実際のところダークマターとは何であるのかは不明です。ダークマターの正体としてニュートリノなどが考えられていますが、「アクシオン」という仮説上の素粒子も候補の一つに挙げられています。そんなアクシオンを検出する最新機器の開発に研究者たちが成功したという報告が、Physical Review Lettersという物理専門雑誌に発表されました。
After 30 years of R&D, breakthrough announced in dark matter detection technology, definitive search to begin for axion particles | UW News
http://www.washington.edu/news/2018/04/09/admx-detection-technology/
アクシオンはもともと、素粒子物理学上の未解決問題である「強いCP問題」を解決する存在として期待されていた未発見の素粒子でしたが、研究が進むにつれてダークマターの候補としても注目を集めるようになりました。そんなアクシオンの検出を目的としたThe Axion Dark Matter eXperiment(ADMX)は、30年以上にわたって研究開発が行われてきました。
ADMXはワシントン大学を拠点としてフェルミ国立加速器研究所が開発を行っているアクシオン検出器であり、超伝導磁石で覆われた地下に設置されています。アクシオンはほとんど物質と干渉することはないとされていますが、強い磁場と低温に調整されたADMX内でアクシオンが電磁波へと変換され、その時に放出される光子の周波数をADMXは検出できるそうです。
「AMラジオのようなものだと考えてもらって構いません」とワシントン大学のグレイ・リブカ准教授は語り、一定の周波数を探索するADMXの特性について説明しました。リブカ准教授によると、ADMXはラジオ局から発せられる周波数をキャッチするようにアクシオンを検出可能であるものの、果たして本当にラジオ局が周波数を発しているのか、つまりアクシオンが存在しているのかどうかは現時点ではわからないとのこと。
目で観測できないアクシオンを検出するために、1983年にフロリダ大学のピエール・シキヴィ教授が磁場によるアクシオン検出方法を提唱してから、30年以上にわたってADMXの研究開発が続けられてきました。しかし、ADMXは非常に繊細な機器であるために、周囲からの熱放射とADMX自体の電子機構が発生させるバックグラウンドノイズによって、長い間運用が成功しませんでした。
熱放射に関してはADMXを絶対零度近くまで冷却することにより回避できましたが、電子機構からのノイズを回避することは非常に困難だったとのこと。今回、研究チームは従来のトランジスタ増幅器に代えて超伝導量子増幅器を使って周波数を検出する方法を開発し、ADMX自体から発生するノイズを減らすことができたそうです。
ADMXの共同スポンサーであるローレンス・リバモア国立研究所の物理学者ジャンパオロ・カロッシ氏は今回発表されたADMXの改良について、「初期のADMXではトランジスタ増幅器を使っていたために、アクシオンが存在すると思われる範囲のスキャンを行うのに数百年が必要でしたが、新しい増幅器を使用することでわずか数年で同範囲のスキャンが可能です」と述べており、宇宙の謎を解明するスピードが非常に向上したとしています。
by Giuseppe Donatiello
ADMX開発チームのチーフであるレスリー・ローゼンバーグ教授は、「私たちにはもう新しい技術は必要なく、ただ時間さえあればアクシオンを探査できるでしょう」と語りました。
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