ビッグバンで生まれた「リチウム」の4倍ものリチウムが宇宙空間に存在する原因とは?
スマートフォンや電気自動車のバッテリーにかかせない物質の「リチウム」は、宇宙誕生のビッグバンで生まれたと考えられています。ビッグバンによって誕生したリチウムは、その後、宇宙空間で増えていることが確認されており、どうやってリチウムが誕生したのかについて議論がなされてきましたが、近年、その原因が明らかになっています。
BBC - Earth - The cosmic explosions that made the Universe
http://www.bbc.com/earth/story/20170220-the-cosmic-explosions-that-made-the-universe
金属の中で最も軽いリチウムは、138億年前に起こった宇宙の始まりである「ビッグバン」によって生み出されたと考えられています。ビッグバン発生時にプラズマ状態だった宇宙は膨張して冷え始めるとともにビッグバン原子核合成が起こり、ビッグバンから3分後には水素、ヘリウム、リチウムなどの比較的軽い元素が誕生しました。
なお、ビッグバンによって発生した初期宇宙にある原始リチウムの量については、宇宙の観測から算出される推測値と理論値の間には大きな隔たりがあることが知られています。原子量7のリチウムは観測推定値が理論値の3分の1しかなく、この不一致は「宇宙リチウム問題」と呼ばれ、ビッグバン理論に残された大きな謎として知られています。この謎の解明は現在も続いていますが、宇宙の4分の1を占めると考えられている未知の物質「暗黒物質(ダークマター)」との相互反応で消滅したという説などが挙げられています。
宇宙を形成する謎の超物質「暗黒物質(ダークマター)」とは? - GIGAZINE
他方で、宇宙誕生時に比べると現在の宇宙空間には多量のリチウムがあることが確認されています。比較的最近形成された若い星の表面から大量のリチウムが放出されているのを天文学者は観測しており、銀河系には太陽の150倍の重さのリチウムが存在すると推測されています。ちなみにこの量はビッグバンで作られたと考えられているリチウム量の約4倍にもなるそうです。地球にあるリチウムも、ビッグバン誕生後に生まれた新しいリチウムに由来すると考えられていますが、この過剰なリチウムがどこから来たのかについて仮説が立てられ、3つの要因が挙げられています。
◆宇宙線
1つめの可能性は「宇宙線」。宇宙線は陽子を中心とする高エネルギーの放射線で、宇宙空間を飛び交っています。宇宙が膨張するに伴って誕生した酸素などの物質に宇宙線が衝突することで、より原子量の小さなリチウムに分裂したと考えられています。
ただし、イリノイ大学のブライアン・フィールズ教授によると、宇宙線によって誕生したリチウムは全宇宙にあるリチウムの20%に満たない量だとのこと。ビッグバン発生時に誕生した原始リチウムが約20%なので、残りの60%のリチウムには別の起源がありそうです。
◆AGB星
星は誕生と共に姿を変えていくことが知られています。最初は水素を核融合させることでエネルギーが発生しますが、次にヘリウム、炭素、酸素などを核融合させ続けて星は質量が増えていきます。太陽の10倍程度の重さに達した恒星は「AGB星」と呼ばれており、星の一生の中では末期にあたります。このAGB星は核融合でリチウムを生成し、作られたリチウムは星の表面に到達し、宇宙へと放出されると見られています。
◆Novae
また、白色矮星の表面で起こる「Novae」と呼ばれる恒星の爆発がリチウム発生源であると考えられています。白色矮星が他の星とともに軌道に乗っている場合、重力の大きな白色矮星は水素などを他の星から引き出す可能性があります。星から引き離されて白色矮星の表面に貯まった物質は、温度と圧力が高まり最終的に核融合反応を起こし、リチウムが発生すると考えられています。
核融合反応では発生する熱によって連鎖的に核融合反応が起こり、ついには地球から確認できるほど明るく輝く星として爆発します。これをNova(新星)と呼び、多数のNovaが起こるのがNovaeというわけです。Novaeによって瞬時にリチウムなどの物質が秒速数千キロメートルという超高速で宇宙空間に放出されると考えられています。
上記3つの説が挙げられていましたが、どれがリチウム生成の大きな原因になるのかは明らかではありませんでした。しかし、2013年に日本のアマチュア天文家の板垣公一氏が、いるか座に現れた新星「V339 Del」を発見したことで議論が大きく前進することになりました。この新星V339 Delを国立天文台の田実晃人博士らの研究チームがすばる望遠鏡を使って観測した結果、放出された成分の中から原子量が7のベリリウム(7Be)が検出されました。7Beは半減期が53日でリチウムに変化することから、Novaeによってリチウムが放出されていることが確実になったというわけです。
宇宙における爆発的リチウム生成の初観測に成功-新星爆発は宇宙のリチウム合成工場だった- - 20150219_sci.pdf
(PDFファイル)http://www.nagoya-u.ac.jp/about-nu/public-relations/researchinfo/upload_images/20150219_sci.pdf
田実博士らの研究発表から数カ月後にはイタリアの研究グループが別のNovaからリチウムを直接検出したとする発表をおこなっており、Novaeによる爆発でリチウムが生成することが確実になりました。
Novaeによってリチウムが生まれていることが明らかになった今、多くの科学者がNovaeによってどれくらいのリチウムが生み出されたかの定量化に取り組んでいます。また、Novaeによって大量のリチウムが宇宙空間に生み出されるメカニズムを研究することは、ビッグバン発生時のリチウム量が少なすぎるという宇宙リチウム問題解決の糸口になるのではないかという期待もあるようです。
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