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シャーロック・ホームズが住んだ「ベーカー街221B」の謎、真の所有者は不正なお金を家につぎ込んでいる

by dynamosquito | Flickr

私立諮問探偵シャーロック・ホームズが住んでいた下宿先の住所「ベーカー街221B」は、ホームズが活躍していた時代の現実世界には存在しないため、ファンの間で「ベーカー街221Bはどこか?」ということが長年の謎として存在しました。2018年現在はシャーロック・ホームズ博物館が「博物館の場所こそが221Bだ」と主張していますが、実際の221Bという住所の家は別の「何者か」が所有しています。実はベーカー街の不動産の多くはオフショア企業を経由することで持ち主が匿名となっていて、カザフスタン大統領の血縁関係者を含めた裕福層が不正なお金の隠し場所として利用しているのではないかとまことしやかにささやかれています。

221b Baker Street and the president of Kazakhstan's daughter Dariga Nazarbayeva and grandson Nurali Aliyev — Quartz
https://qz.com/1245110/the-unsolved-mystery-of-who-owns-sherlock-holmes-130-million-home/

イギリスにあるシャーロック・ホームズ博物館は、博物館のある場所こそがホームズの住んでいたベーカー街221Bであると主張していますが、実際には博物館の住所はベーカー街239であり、ベーカー街221Bという住所はその左側にある建物です。ベーカー街215から237までに並ぶ建物には1億3000万ポンド(約195億円)以上の価値があり、オフショア企業を経由した匿名の人物によって所有されているものといわれています。

by njtrout_2000

イギリスがタックスヘイブンの中心となっているというのはアクティビストの中では有名な話。2015年にはデーヴィッド・キャメロン首相がシンガポールでの演説で「ペーパーカンパニーを使ってロンドンの不動産に不正なお金を投資する組織犯罪や役人の汚職を止めなければいけない」と語っていました。そして2017年に発表された「(PDFファイル)反汚職戦略 2017-2022」という文書では、マネーロンダリングに関与していたとみられているカザフスタンの税務警察官、ラハト・アリエフ氏とベーカー街の関わりについて引用されています。

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反汚職組織はベーカー街221Bを含む不動産の調査を進めており、パナマ文書の流出によってヌルスルタン・ナザルバエフ大統領の家族のうち一人以上がこれらの不動産を持っていることが示唆されています。厳密に家族の誰が所有しているかは、オフショアの匿名性ゆえに明らかではありませんが、Quartzの記者であるMax de Haldevang氏は孫のヌラリ・アリエフ氏と娘のダリガ・ナザルバエフ氏が不動産とのつながりがあるのではないかと見ています。Forbes Kazakhstanによると、2人は何年も政府の仕事についており何億もの私財を蓄積しているとのこと。

世界でも有数の石油・天然ガス資源開発国であるカザフスタンでは汚職がはびこっており、Transparency Internationalが発表する透明性の世界ランキングでは180カ国中122位となっています。元カザフスタンの首相であり亡命中のアケジャン・カジェゲリディン氏は、カザフスタンでは「少数の人々が国、法執行機関、セキュリティ機関をコントロールし、それによって私有財産を守っています」と語っています。イギリスやアメリカといった国は、ナザルバエフ一家のような極めて裕福な一部の人々が不正に得た財産を守り足跡を消す「国際的サービス」を提供しているようなものであるとコロンビア大学ハリマン研究所の政治科学教授であるアレクサンダー・クーリー氏は語っています。

ベーカー街の不動産はこのような「国際的サービス」の一端であると考えられており、2015年に反汚職組織のGlobal Witnessはカザフスタンの税務警察官でありナザルバエフ大統領の義理の息子だったラハト・アリエフ氏が不動産の所有者であると示していましたが、アリエフ氏はオーストリア・ウィーンの刑務所内で死去。アリエフ氏の死には不審な点が残されているとして、アリエフ氏の弁護士は詳しい調査を依頼しました。一方で、不動産を管理するBCL Burton Copelandの弁護士は「アリエフ氏が所有者だったことはない」とうわさを否定しています。このことから、Global Witnessのトム・メイン氏はヌラリ・アリエフ氏やダリガ・ナザルバエフ氏が所有者ではないかと見ているとのこと。

イギリスの法律では企業の株式を25%以上所有している場合、「支配権を持つ人」として企業がその人物の氏名を公開する必要があるため、通常であれば同族経営の会社の株主を見つけることは容易です。しかしベーカー街の不動産の所有者として登録される公開有限会社「Farmont Baker Street」は誰の名も公開しておらず、所有者を明らかにしていません。これはつまり、1人の人が持つ株式の割合が25%を越えていないこと、すなわち5人以上の所有者が存在するということを意味します。

カジェゲリディン元首相は「ナザルバエフ大統領の家族に関係する誰かからEUやイギリスへと送られたお金は全て疑わしいものとして扱うべき」だとして、ナザルバエフ大統領やヌラリ氏と建物のつながりを調査すべきであると主張しています。また2016年に組織犯罪と汚職報道プロジェクト(OCCRP)はパナマ文書から「ヌラリ氏がオフショアに財産を蓄えている」と結論付けています。ただし、ナザルバエフ大統領やヌラリ氏が汚職や不正行為を行っているという証拠や、不正な財源でベーカー街の不動産を購入したという証拠は2018年4月時点で見つかっていません。


では、なぜヌラリ氏がベーカー街の不動産を所有しているとみられているのかというと、2008年からのヌラリ氏の行動にそのヒントがあります。2008年、若干23歳にしてカザフスタンの銀行・JSC Nurbankの頭取となったヌラリ氏はヨットを購入します。「ノマド」と名づけたヨットに200万ユーロ(約2億6000万円)の保険をかけたヌラリ氏でしたが、OCCRPがパナマ文書から得た情報によると、ヨットが悪天候でダメージを受けたため、結局のところ乗れずじまいだったとのこと。

このとき、ヨットは複数回譲渡され、少なくともイギリス領ヴァージン諸島にある3つの会社がその所有権を取得しました。政治的な基盤が危うい国に住む裕福層にとって、財産をオフショアの企業の所有とすることは「所有者を匿名に保って母国の権力に財産を奪われないようにする」「税金を安くする」とったメリットがあります。

by Gilles Messian

OCCRPによると、最終的にヌラリ氏はヴァージン諸島にあるGreatex Trade & Investment Corpという企業を通して2011年にヨットを製造元に売却しています。そしてGreatex Trade & Investment Corpは2010年から2011年の間にベーカー街の不動産を所有する企業を取得するに至っています。この「ヨットを所有し売却」「ベーカー街の不動産を所有」という2つの行為を行っているのが、「Mukhamed Ali Kurmanbayev」という人物。LinkedInによると、Kurmanbayev氏は「Private Clients Unitのシニアマネージャーであり、航空機・ヨット・不動産などの財産の専門家」と記されています。Kurmanbayev氏は2007年ごろからヌラリ氏に関連するオフショア企業に名を連ねており、ベーカー街に不動産を購入した3つのイギリスの企業全てで、2010年から2014年、あるいはそれ以降においても名義重役となっています。少なくとも2010年から2011年までの同時期にヌラリ氏のヨットとベーカー街の不動産が同じヴァージン諸島の企業によって所有されたことは確かであり、Haldevang記者はSNSを介してKurmanbayev氏にコンタクトを取っていますが、Kurmanbayev氏の弁護士はコメントの要求に応えていないとのこと。

ベーカー街に不動産を所有する企業の名義重役はKurmanbayev氏だけではありません。2014年以降はKurmanbayev氏に替わってMassimiliano Dall’Ossoという名のイタリア人が名義重役の座についています。このDall’Osso氏は、ナザルバエフ大統領の娘でありヌラリ氏の母親であるダリガ・ナザルバエフ氏とベーカー街の不動産をつなげる人物となっています。

2005年、Dall’Osso氏は、ヌラリ氏の父でありタリガ氏の夫だったラハト・アリエフ氏が所有するドイツの冶金会社の常務取締役に就任しました。この時にDall’Osso氏はタリガ氏と親密になり、のちにアリエフ氏はDall’Osso氏について「タリガ氏の個人アシスタントとして働いている」と述べたそうです。ただし、Haldevang記者がタリガ氏のアシスタントに行ったコメントの要請には反応がなく、タリガ氏とアリエフ氏の双方を知る弁護士もコメント要請に対して沈黙を貫いています。

ベーカー街の不動産をめぐる一件は、ロンドンの不動産事情のほんの氷山の一角です。イギリスにはオフショア企業によって本当の持ち主が隠された不動産が8万6000件もあるといわれています。Transparency Internationalによると、ロンドンにある42億ポンド(約6300億円)相当の不動産が、疑わしい財源を持つ人々によって所有されているとのこと。2017年の調査では、「汚職の疑いが強い」人々によって所有される不動産の90%が、ヴァージン島の企業によって所有されていることも判明しています。

by Darv Robinson

疑わしいお金に対するイギリスの寛大な姿勢は、国の力を奪っていきます。海外の組織やテロリストたちが当局の知らないところでイギリスにお金を蓄積し国家安全保障を危険にさらすほか、イギリスの不動産をイギリスに住む一般人から奪い、価格を作為的に上げられることにもつながります。政府もこの問題を重視し解決のために動いており、当局が資産の所有者に対して持ち分や所有に至った経緯を尋ねることができるようになる法律が施行されるようになりました。当局は既にこの法律に基づいてロンドンにある2200万ポンド(約33億円)相当の不動産2つをターゲットにして調査を行っています。ただし、この不動産がベーカー街のものかそうでないのかは明かされておらず、ベーカー街221Bの所有者の謎は、いまだ解決されないまま残っています。

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in メモ, Posted by darkhorse_log

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