ギネスビールの醸造所が統計学的手法の一つ「t検定」を生み出した

by Marc Henklein

統計学における仮説の検定法である「t検定」は、生物学や物理学などあらゆる科学分野で使用されていますが、なんと「t検定はギネスビールの醸造所から生まれた」そうです。

The genius at Guinness and his statistical legacy
https://theconversation.com/the-genius-at-guinness-and-his-statistical-legacy-93134

ギネスは1759年創業の老舗ビール醸造会社であり、長年にわたってビールの品質評価を醸造家の主観的評価に依存して行ってきました。ところが、19世紀の終わりにギネスは事業規模を拡大し、ギネスビール生産のあらゆる過程に科学的アプローチを導入する方針を固めます。

科学に造詣の深い醸造家の募集を始めたギネスは、1893年にトーマス・ベネット・ケースという人物を雇い入れます。ケースはビールの原料であるホップ に含まれる軟性樹脂(ソフトレジン)の量がビールの味と関連しているとして、原料となるホップに含まれているソフトレジンの量を計測することで、作られるビールの品質を評価できると考えていました。ところが、ケースは「原料となる全てのソフトレジンの量を見積もることは不可能である」という問題に直面します。ビールの原料となるホップの量は膨大であり、とてもいちいち評価することはできませんでした。

そこで、ケースはホップから50グラムのサンプルを11回に分けて採取し、平均のソフトレジン量を計測する方法をとりました。ケースは複数サンプルの平均をとることで、ホップ全体のソフトレジン量を知ることができると考えたのです。ケースはこの考えを確かめるために、次は50グラムのサンプルを14回取り出し、再度計測しました。すると、サンプルに取ったホップに含まれるソフトレジン量にわずかな差異が見られ、「このやり方は間違っているのか?」とケースは再び問題に直面します。

by Josh Delp

当時の統計学は大規模なサンプルをもとに統計を取る手法が一般的であり、ケースが行ったような11回、14回といった小規模なサンプルでは正確な統計を取ることができませんでした。1899年にギネスビールの醸造所に採用されたウィリアム・ゴセットは、オックスフォード大学で化学と数学を専攻しており、小規模なサンプルから正確な統計を取る方法の解決に取り組んでいました。1906年、ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンに勤める統計学者のカール・ピアソンとともにゴセットは研究を進め、ギネスビールで行う小規模サンプルから統計を取る手法を開発しました。

しかし、ギネスは従業員が個人名でビールの醸造に関する研究を発表し、他のビール醸造会社に技術を奪われることを恐れていました。そのため、1930年代後半まで「従業員は自分の名前で論文を発表してはいけない」というルールを設けており、1908年にゴセットは匿名の「STUDENT(生徒)」として「t検定」の基礎となる論文「The Probable Error of a Mean」を発表しました。

ゴセットの理論は2つの小規模なサンプルから取った統計の差異を「t分布」という連続確率分布を用いて、有意性を検討するというものでした。t検定の開発により、ビール醸造家たちは2つのサンプルの差異がゼロになる地点を探すのではなく、サンプルの差異を考慮に入れて分析可能になったのです。

by Allen Skyy

ゴセットが開発したt検定は発表当初こそあまり注目されませんでしたが、イギリスの統計学者であるロナルド・フィッシャーが熱狂的にこの説を支持し、数学的証明を添えたため統計学界の注目を集めるようになりました。それ以来t検定は「脳卒中患者の脳機能評価」から「海洋細菌の炭素および窒素含有量の測定」、「どのような行動が炭鉱労働者の事故を引き起こすのか」といった、非常に幅広い研究分野に活用されています。

今度ギネスビールを飲むときは、多くの学者たちがビールにかけた情熱によって開発された統計学的手法について、思いをはせてみるのもいいかもしれません。

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