世界地図を模して海上に建設されたドバイの人工島「The World」の現在とは?
by Nico Crisafulli
中東屈指の金融国家として成長してきたドバイでは、世界地図を模した人工島リゾート施設「The World」の建設を2003年から進めてきました。世界各地の超富裕層をターゲットにしたThe Worldは、2008年の金融危機によって全体的に建設がストップした後、今に至るまで完成していません。
Not the end of The World: the return of Dubai's ultimate folly | Cities | The Guardian
https://www.theguardian.com/cities/2018/feb/13/not-end-the-world-return-dubai-ultimate-folly
「The Worldプロジェクトは、金融バブルに沸いたドバイが追求した野心的な計画だった」と、The Guardianのライターであるオリバー・ウェインライト氏は述べています。ウェインライト氏は実際にThe World内で唯一立ち入り可能なエリア「レバノン島」に上陸してみて、2003年から開始された工事は遅々として進まず、捨てられたビール瓶が埋め立ての砂浜に転がっているThe Worldの光景は、孤独なものに感じられたとのこと。
The Worldプロジェクトでは、海岸から2マイル(約3.2キロメートル)の海上にまるで世界地図を縮小したかのように、国や地域ごとに1つの「島」を埋め立てていく計画で、人工島の数は全部で300にもおよびます。The Worldの人工島は全て世界の大富豪が個人所有する計画になっており、毎年50人の潜在的な買い手に購入オファーが送られ、建設予定地のツアーを行っていたそうです。島の価格は1つが1500万ドル(約16億円)から50万ドル(約55億円)におよび、イギリスの大富豪リチャード・ブランソンがThe Worldのイギリス島で写真を撮ったり、「ブラッド・ピットが養子のために"エチオピア"を買った」といううわさが流れるなどして話題を集めました。
by akaitori
3億2000万立方メートルの砂と2500万トンもの岩石を使用して人工島を造成する工事が開始されてから5年後の2008年1月、世界的な金融危機の波がドバイにも直撃します。The Worldプロジェクトを政府の支援で進めていたドバイ・ワールドは、この金融危機によって600億ドル(約6兆4000億円)もの負債を抱えてしまったため、The Worldの人工島開発も一時的にストップしてしまいます。現在に至るまでThe Worldは、とても世界地図を模しているとは思えない中途半端な形で海上に浮かんでおり、巨大な人工島と金融危機直前に完成したThe Worldを囲う防波堤が、かつてドバイが誇った栄華をわずかに思い起こさせるだけです。
金融危機の被害を被ったのはドバイ・ワールドだけではありませんでした。The World内にあるイギリス島を購入した実業家のサフィ・クラシ氏は不渡り小切手を使用したとして投獄され、2009年初めにはアイルランドを購入したジョン・オドラン氏が事業不振に悩んだ末自殺してしまうという事件も発生。The Worldの顧客も金融危機によって大ダメージを受けてしまったため、プロジェクト自体にも暗雲が立ちこめる結果となってしまいます。
ウェインライト氏が訪れたレバノン島は一般の立ち入りが許可された唯一の地区であり、ビーチで泳いだり和牛のステーキを食べることができます。他にも建設された施設でファッションショーやDJパーティー、企業イベントなどが開催されており、「黙示録的な荒廃した世界に囲まれた、享楽主義最後の地のようだ」とウェインライト氏はレバノン島の印象を述べています。
by NASA's Marshall Space Flight Center
しかし、近年になって再びThe Worldの島々には活気が戻りつつあり、人工島の開発も再開されだしているとのこと。オーストリア出身の警察官・政治家・作家・不動産開発会社オーナーであるヨシフ・クラインディーンスト氏は、ドイツ・オーストリア・スイス・オランダ・スウェーデン・サンクトペテルブルクといった6つの島々を購入し、人工島の開発に着手しているとのこと。「私は人工島に雪を降らせる計画をしています。ヨーロッパの人にとって雪は珍しくもないかもしれませんが、ドバイの人にとって雪は非常に珍しいものです」と語っており、ドイツの科学者たちと協力して屋外冷房技術を開発し、所持している島々をリゾートとしてドバイの富裕層に売り出す計画を練っています。
クラインディースト氏が開発を進めるリゾートのいくつかはすでに買い手がついているとのことで、ウェインライト氏の前でクラインディースト氏は非常に自信たっぷりに話していたそうです。クラインディースト氏によると、「ドバイの富裕層はThe Worldをまるごと買い取るくらい簡単ですが、彼らはあくまでもThe Worldプロジェクトの一員になりたいのです」とのことですが、ウェインライト氏はクラインディースト氏が虚勢を張っているのではないかと考えています。
ウェインライト氏によると、クラインディースト氏が主張する「2020年に開かれるドバイ国際博覧会までに4000のリゾートルームを完成させる」ことは実現不可能であり、ドバイの富裕層にアピールしている8%の利回りも実現できないだろうとのこと。また、アメリカの女優・歌手であるリンジー・ローハン氏もThe Worldのアテネ・ミコノス島を購入していますが、ローハン氏も近年のスキャンダルでかつての勢いはありません。
by Michiel2005
The Worldの開発に携わる建築会社Bermello Ajamilの社長であるアジャミル氏は、金融バブル時代の狂気を引きずっていたThe Worldの開発に、市場の感覚をもたらした人物だとのこと。「私が開発に参加する前、The Worldはそれぞれの島々を個人のオーナーに売りつけ、完全なプライベートリゾートにする予定でした。ところが、大金を払ってまでプライベートリゾートを持ちたい人は、300人もいないとわかったのです」とアジャミル氏は述べています。
アジャミル氏は島を1つのリゾートにするのではなく、高密度に分割して公衆に解放したリゾート区画として売り出すことに決定。"南極大陸"は巨大な商業施設となり、7階建てのホテルも建設する予定となっています。アジャミル氏がこの方針を打ち出し、島の所有者が島を商業的なリゾートに開発することで収益を得られるモデルを展開した結果、The Worldの島々にはようやく買い手がつき始めたとのこと。
ウェインライト氏の「島々の集合リゾート化は、The Worldの価値を低下させるのではないか?」との問いに、アジャミル氏は「間違いなく価値は低下するでしょう」と答えたそうですが、アジャミル氏はすでに売却の計画は進んでおり、今更変更はできないと述べています。バブル時代の遺産が未完成のまま売却され、開発の計画だけが次々と変更されているThe Worldですが、いつの日か開発が終了して人々があふれる可能性もゼロではないようです。
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