サイエンス

深海の微生物を土星の衛星「エンケラドゥス」と同様の環境で繁殖させることに成功

by Kevin Gill

土星の衛星「エンケラドゥス」には二酸化炭素・メタン・水素が存在し、生命体生存の条件がそろっていると報告されています。エンケラドゥスの深海には地球と同様の環境があり、微生物が進化した可能性があるとされていましたが、ついに研究者たちが「エンケラドゥスと同様の条件で深海の微生物を繁殖させることに成功した」と発表しました。

Biological methane production under putative Enceladus-like conditions | Nature Communications
https://www.nature.com/articles/s41467-018-02876-y

Microbes found in Earth’s deep ocean might grow on Saturn’s moon Enceladus - The Verge
https://www.theverge.com/2018/2/27/17053164/enceladus-saturn-moon-alien-life-microbes-methane-hydrothermal-vents

エンケラドゥスの表面は氷で覆われていますが、その下に海が存在していることがわかっています。「地球上の生命は海中の熱水噴出孔付近で発生した化学反応によって生まれた」とされていますが、エンケラドゥスの深海部にも熱水噴出孔が存在することが科学者たちの研究により明らかになっているため、「エンケラドゥスの深海には微生物発生の条件が整っている」ということになり、ひょっとするとエンケラドゥスには微生物がいるかもしれないという期待が高まっていました。

地球で生命が生まれたのと同じ環境が土星の衛星「エンケラドゥス」に存在すると最新研究で発表


そこで研究者たちは、実験室の中で人工的にエンケラドゥスの深海部にある熱水噴出孔付近と同じ環境を作り出し、微生物を繁殖させるという実験を行いました。エンケラドゥスの調査の一環として、NASAの土星探査機「カッシーニ」がエンケラドゥスの表面から吹き上げる間欠泉に突入し、水・メタン・二酸化炭素・アンモニア・分子窒素・一酸化炭素・エチレンおよび分子状水素などの物質がエンケラドゥスの海に存在することが判明しています。実験ではこれらの物質を含んだ上にエンケラドゥスの深海と同レベルの水圧がかかる環境を作り、地球の熱水噴出孔付近に生息する3種類の嫌気性メタン生成古細菌(Methanothermococcus okinawensis 、Methanothermobacter marburgensis、Methanococcus villosus)を培養しました。

実験の結果、3種類のメタン生成古細菌のうち「Methanothermococcus okinawensis」という種類の細菌は、エンケラドゥスの深海と同様の過酷な環境でも正常に繁殖したとのこと。「Methanothermococcus okinawensis」は沖縄トラフ付近の伊平屋海嶺に存在する熱水噴出孔から検出されたメタン生成古細菌で、熱などに対し非常に高い耐性を持っているそうです。

by Penn State

メタン生成古細菌は二酸化炭素を吸収してメタンを放出するという特性を持っており、惑星エンケラドゥスで検出されたメタンのうちにも、細菌が放出したメタンが含まれている可能性があるとのこと。サンアントニオのサウスウェスト研究所に勤務する科学者であるクリストファー・グレイン氏は、「この発見は生物の存在に関する私たちの考えを、大きく広げるものだ」と述べています。

しかし、記事作成時点では「エンケラドゥスに微生物が存在するかもしれない」というアイデアは、単なるシナリオの一つに過ぎないとのこと。エンケラドゥスのメタンが本当に細菌に由来するものなのか、それとも熱水噴出孔などの自然現象によるものなのかを確かめるには、もう一度高性能な検査装置を装備した探査船をエンケラドゥスに送る必要があります。

宇宙探査をリードするNASAにとって、エンケラドゥスは数ある探査対象のうちの一つでしかありません。記事作成時点では木星の衛星「エウロパ」の熱水噴出孔探査に注力しており、限られたリソースをエンケラドゥスの再探査にまで回す余裕がないとのこと。エンケラドゥス探査を望む研究者たちは、太陽系に存在する他の惑星や衛星を調査したい多くの研究者たちと競争しなければなりません。

by Rogelio A. Galaviz C.

今回の研究を主導したウィーン大学の微生物研究者サイモン・リットマン氏は、「Methanothermococcus okinawensisと同様の微生物が他の惑星にも生息している可能性は高い。将来の探査で微生物の存在を調査するのは非常に興味深い」と述べています。エンケラドゥスの再探査を実現するには、今回のような新発見が積み重なることにより、エンケラドゥスの重要性を世界中にアピールする必要があります。

探査船カッシーニのプロジェクトに関わっていた惑星学者ジョナサン・ルニン氏は、「貴重な資源を費やしてエンケラドゥスの再探査を行い、生命の兆候を探るためには、これ以上の理由が必要です」と語りました。

by Kevin Gill

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in サイエンス,   生き物, Posted by log1h_ik

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