メモ

製品・サービスの価格はどうやって決めれば良いのか?スタートアップへの10年間の投資から得た投資家からのアドバイス


商品やサービスを販売する上で「価格設定」は欠かすことのできない重要な作業です。価格をどう設定するのかは、企業がとる戦略や目的によっても異なり得ると、ベンチャーキャピタリストのトーマス・タンガス氏は述べています。主にSaaSを提供するソフトウェア会社に対して10年にわたってビジネス戦略上のアドバイスを行ってきたタンガス氏が、ソフトウェア商品の値付けの重要なポイントを明かしています。ソフトウェア製品だけでなく、ハードウェアや各種サービスの価格設定にも利用できそうな価格設定のエッセンスがちりばめられています。

Ten Year's Worth of Learnings About Pricing
http://tomtunguz.com/pricing-summary/

そもそも「なぜ価格を設定するのか?」という根本的な問いかけからタンガス氏は話を始めています。利益を上げて企業の健全性を保つため……という、現実的な理由を脇に置けば、価格設定には、その製品がプレミアムな製品なのかバリュー(お買い得な)製品なのかを知らせることで「ブランドを強化する」という機能があります。他にも、市場に出回る他社製品と差別化して市場に切り込む戦略に使ったり、割安な値付けをして市場シェアを奪うなど様々な意味があるとタンガス氏は述べています。


タンガス氏によると、ビジネスにおいて非常に重要な製品の価格決定には、以下のIからIVまでの4つの要素があるとのこと。

◆I:戦略


スタートアップを含む新興企業は「どのようにして価格戦略を行ったか?」という問いに対して、頼りない答えしか出せないものだとタンガス氏は述べています。たいていの場合、競合他社の価格戦略をまねするもので、横並びの価格になりがちです。しかし、価格決定にはビジネスの「戦略」となり得る重要な要素であり、戦略なき価格設定では意味がありません。タンガス氏によると、スタートアップがめざましい収益を上げるために追求すべき、価格設定の戦略は以下の3つしかないとのこと。

・1:最大化(目的:成長)
顧客によって支払い意欲に違いがなく、なおかつ短期と長期で適正価格が違わないという場合には、スタートアップは「規模の拡大」を目指すべきです。そのために短期間で収入を最大化できる場合には、中堅のソフトウェア企業の多くは売り上げを最大化させるという目的に従って製品の値付けをし、すべての販売機会で可能な限り高く売れるように交渉するものだとのこと。

・2:浸透(目的:市場シェア)
市場のシェアを奪うためには、低価格に設定しなければなりません。ここではボトムアップ戦略が有効です。低価格に設定されたサービスは、利用者の「お試し」の抵抗を減らし、素早い成長が期待でき、その後の幅広い展開につながります。

・3:スキミング(目的:利益の最大化)
収入から支出を引いた純利益を最大化させるために有効な戦略は、「スキミング」です。これは、高い価格設定でスタートさせ、より多くの客層に対応するために低価格の商品のラインナップも増やす、というのが基本的なやり方。最高のお手本が、AppleのiPhoneです。Appleは最新のiPhoneを最高価格で販売しつつ、古いモデルを低価格に再びパッケージ化することで、異なる客層に対応しています。タンガス氏に言わせると、スティーブ・ジョブズは「製品化の天才」であるとともに、「価格設定の天才」でもあったとのこと。

タンガス氏によると、スタートアップの価格戦略は明らかでなかればいけないとのこと。企業が進むべき方向にあわせて、どの戦略を追求するかを決めた上で、それに沿ってマーケティング・エンジニアリングなどを調整する必要があるそうです。

◆II:哲学


価格設定には「コスト」ベースと「価値」ベースの2種類の哲学があるとのこと。一般的には製品の原価をもとに価格設定をするコストベース哲学が多いものです。コストに基づいて価格設定するには、製品コストにマージン(利益)を追加すればOK。マージンを50%に設定するなら、原価の2倍の値付けにすればいいということです。

これに対して、価値ベースの価格設定は、顧客が払いたいと思うものに課金することになります。価値ベースの価格設定をするならば、顧客の予算と顧客にとっての製品の持つ価値を正しく理解する必要があります。

◆III:構造


現代の行動経済学では3つの異なる価格体系が研究されています。SaaS製品を提供するスタートアップにとって、参考になるのは携帯電話で用いられている3つの価格体系だとタンガス氏は考えています。

・1:比例(LP)
使用量に応じた分の料金を提示すること。例えば、時間あたりで費用を請求する場合がこれにあたります。基本料などの費用負担はないため、顧客にとってみればごく少量でも利用できるメリットがあります。

・2:2パート制(2PT)
ソフトウェアの基本的なプラットフォーム使用料(基本料)に、使った分だけ支払うLPを加えること。

・3:3パート制(3PT)
基本料と使った分だけかかる利用料がある点は2PTと同様ですが、基本料の中に追加費用の支払いなくサービスを利用できる一定量の無料分が含まれているのが特徴です。

上記3つからどの戦略を採るべきかについて、「同一カテゴリでの競合が少ない場合は、3PTが最適だ」という意見があるとのこと。ルイビル大学のヨン・チャオ教授は、市場で支配的な企業がライバル企業と戦う場合には、3PT戦略がもっとも適している」と論文(PDFファイル)内で述べています。また、顧客は必要量以上のものを購入しようとする傾向にあるという携帯電話会社の調査からも、3PT戦略は優れていると考える専門家もいます。

また、ベンチャーキャピタリストであり起業家のパートナーとしてビジネスのアドバイスする立場にあるダンガス氏が一貫して行ってるのは、「ソフトウェアの価格を引き上げること」。顧客は「より高価な製品ほど貴重で価値が高い」という心理が働くことが多く、価格上昇にともなって需要も増加する段階があるとダンガス氏は述べており、現代の行動経済学は、製品の価格を上げるのに最も効果的な方法は、3PTの構造を示唆しているそうです。

なお、「価値ベース」の哲学と3PTの構造を組み合わせて価格設定を行うことは、競争において優位性を高め、顧客がより多くの製品を利用したり高い満足度を得ることにつながる可能性があるとのこと。

◆IV:ポジション


課金には3つの形態(ポジション)があります。それは、メッセージ・イベント・通話分などの「ユニット」あたりの課金、「利用者」一人あたりの課金、組織内の全員が利用できる「エンタープライズ」課金です。

◆まとめ
タンガス氏が述べる、価格設定を行うために考慮すべき要素は以上の4つです。それぞれの要素でどれを選択するのかを中心に、価格設定をすればよいわけです。

ただし価格設定を決定するにあたっては、「顧客が気にすること」を見極めるのが肝心だとダンガス氏は述べています。顧客が気にしているのは、「コスト」なのか「価値」なのか?顧客の中でコアとなるのは使える人数なのか価格なのか容量なのか?顧客にとってかかる費用規模を予測しやすいか?顧客は希望する価格をはっきりと口にするのか?なお、様々な問いかけをしなければいけないとのこと。

そして、価格設定を行うために必要となる疑問は、すべてマーケティングの対象だとタンガス氏は述べています。製品を販売する前に市場調査、顧客への聞き取り、営業との意見交換などをマーケティングチームが行って、企業戦略と販売戦略が一致する価格戦略を採るべきだとのこと。なお、価格設定の課題は変化しないものではないということは重要です。競争相手の存在、市場での自社の位置づけ、顧客のニーズなどビジネス環境は常に変化し続けるものなので、これらの変化が現れ業界が進化するにつれて、あらたに価格設定をし直すことも大切だとのことです。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
商品に適切な値段を付けるための4つの原則 - GIGAZINE

有料会員制でありながら売り上げを伸ばし続けるコストコ成功の秘密とは? - GIGAZINE

スマホゲームの収益の半分は全ユーザーのたった0.19%が支えていることが判明 - GIGAZINE

航空会社の運航に関わる売り上げの8割以上はプレミアムシートの旅客が担っている - GIGAZINE

数々の有名スタートアップを輩出し続けるYコンビネーターによる資金調達の4つのアドバイス - GIGAZINE

スタートアップを脱し急成長モードの「スケールアップ」に突入した企業のトップに必要なこととは? - GIGAZINE

in メモ, Posted by darkhorse_log

You can read the machine translated English article here.