難治性の幻聴にも効果的なアバターを用いる治療法「AVATARセラピー(アバター療法)」

統合失調症患者の約65％が聴覚幻覚(幻聴)に悩まされているというデータが存在しており、「他人」の放つ言葉が傲慢で軽蔑的で敵意のある言葉に聞こえるようになるそうです。幻聴に対する治療法の多くは効果的なものですが、それでも効果がない患者が全体の約4分の1ほど存在します。そんな難治性の幻聴に悩まされる人にも効果が期待できるのが、「AVATARセラピー(アバター療法)」と呼ばれるものです。

AVATAR Therapy for Auditory Hallucinations: If You Can't Beat the Voices, Join Them | MD Magazine
http://www.mdmag.com/medical-news/avatar-therapy-for-auditory-hallucinations-if-you-cant-beat-the-voices-join-them

アバター療法は「Audio Visual Assisted Therapy Aid for Refractory(難治性の幻聴向けの音声と映像で手助けする治療法)」の頭文字を取ったもので、イギリスの国立健康研究所が2009年から2011年にかけて幻聴に悩む患者の治療法を研究していた際に、試験的に導入したことから注目を集めるようになったものです。

by cozo cobun

アバター療法は、幻聴に苦しむ患者が「幻聴の声の主」だと思う顔をアバターで作り出し、さらに幻聴自体も音声で再現することで、患者がアバター(幻聴)と対話できるようにするという治療法です。患者をアバターと対話させ、セラピストが患者に幻聴とのコミュニケーション方法をアドバイスすることで、患者が徐々に幻聴をコントロールできるようにすることが可能とのこと。

治療法を試験導入した際の結果は、アバター療法を受けた患者は精神症状評価尺度の幻聴における数値が平均8.75減少しました。また、最新のアバター療法に関する研究では、12週間の治療で患者の83％が幻聴の症状を減らすことに成功しています。

最新のアバター療法に関する研究を行ったのは、キングス・カレッジ・ロンドンで社会精神科・名誉教授のTom KJ Craig博士率いる研究チーム。実際に幻聴で苦しむ患者に対してどのようにアバターを使って治療を施すのかは、以下のムービーを見ればわかります。

Avatar therapy for schizophrenia - YouTube

これがアバター療法で使用されるアバター。アバターが発する声は通常の聞き取りやすい声とは異なり、少しくぐもった聞き取りづらいぼんやりとしたものです。

セラピストはアバターを通して患者とコミュニケーションを取りますが……

声は加工され、アバターが話している風に演出されます。

セラピストは「もっと強く言ってみて」など、患者が幻聴をコントロールできるようになるためのアドバイスを繰り返します。

もちろんアバターは見た目を変更して、患者の中の「幻聴をささやいてくる人物」に似せたり……

声音を加工してリアルに幻聴を再現することが可能。

「最も劇的な効果がみられた人は、完全に幻聴を聞かなくなりました。Julian Leffが最初の試験でアバター療法の効果を発見していたにもかかわらず、我々は大規模な研究の中でアバター療法が効果的であるという結果を出すとは思っていませんでした」とCraig博士は語っており、実際にアバター療法を試してみるまでその効果には半信半疑であったことを明かしています。なお、Craig博士によると、最も優れた結果は「幻聴が聞こえなくなった」というものですが、その他の多くの患者も幻聴を聞く頻度が減り、幻聴がささやく内容がマイルドなものになったと報告しているそうです。

Craig博士の率いる研究チームによると、研究の被験者は長年にわたって幻聴に悩まされてきた人たち。すべての被験者が統合失調症やうつ病などと診断された人物であり、「幻聴は被験者が苦しんでいる症状のひとつに過ぎません。我々の試験に参加したすべての被験者は、全員が投薬治療を受けていました」とCraig博士。研究では被験者に12週間にわたってアバター療法を施しており、その結果、幻聴の症状を持続的に低下させられることが臨床的に裏付けされています。

ただし、Craig博士アバター治療における限界も認めており、アバター療法は精神病における薬物治療の代わりになるものではないとしています。しかし、将来的に薬物治療の代わりにアバター療法が幻聴や精神病の治療の一端を担うようになる可能性は十分にあるとのことです。