サイエンス

「幻聴」の声はローカルカルチャーに影響を受けることが判明

By Janine

精神に異常をきたして実際には何も鳴っていないにもかかわらず音声が聞こえる現象は「幻聴」と呼ばれ、統合失調症の症状の1つとしても挙げられます。幻聴は人によって会話であったり、壁を叩く音であったりと症状に差があるそうですが、幻聴の音声は生活してきたローカルカルチャーの影響を受けていることがスタンフォード大学の研究によって明らかになりました。

Stanford researcher: Hallucinatory 'voices' shaped by local culture
http://news.stanford.edu/news/2014/july/voices-culture-luhrmann-071614.html


スタンフォード大学の人類学者ターニャ・ラーマン教授は、精神に異常をきたしている人が経験する「幻聴」に関する研究結果を精神医学の専門誌The British Journal of Psychiatryに掲載しており、幻聴がローカルカルチャーによって形成されていることを突き止めました。例えば、アメリカにおいては幻聴は辛辣で脅迫的に聞こえる一方、アフリカやインドでは親切で陽気に聞こえる傾向があるとのこと。ラーマン教授は「統合失調症治療にとって重要な臨床結果となるでしょう」と訴えています。


ラーマン教授によると、これまで幻聴を経験した人たちが聞く音声は、人によってそれぞれ複雑に変化すると考えられていましたが、その変化は個人の社会的・文化的環境に影響を受けて形成されているとのこと。ラーマン教授はこの研究結果について、これまで見落とされてきた精神病の理解における「文化的環境」の影響が確認されることで、統合失調症で苦しむ人々の治療にとって重要な変化を与えられる、と考えています。

ラーマン教授の研究に携わるワトキン教授は、研究データのため統合失調症と診断された成人を、カリフォルニア州サンマテオ、ガーナ・アクラ、インド・チェンナイから20名ずつ集め、インタビューを実施しました。

全体としては31人の女性および29人の男性の構成で平均年齢は34歳。彼らは「どのような幻聴を聞くか?」「幻聴の頻度は?」「何が幻聴を引き起こしていると思うか?」「どんな声に似ているか?」といった質問を受け、「知人の声だったか」「幻聴と会話を行ったか」「幻聴は何と語りかけてきたか」などのほかに、「何が最も苦しい幻聴だったか」「肯定的な幻聴はあったか」「幻聴は『セックス』や『神』について話したか」といった質問に答えました。

By Waiting For The Word

インタビューの結果からわかったことは、アフリカ人・インド人の幻聴は主に肯定的な体験であり、アメリカ人には見られない特徴を持っていました。対照的にアメリカ人の幻聴は主に暴力的で憎しみに満ちたものが多く、病理の症候として受け取られます。アメリカ人はトラウマの発現や遺伝子による脳疾患の症状として幻聴を引き起こすことが多いとのこと。あるアメリカ人は「拷問されるような声が聞こえて、目をフォークで取り出されたり、首を切って血を飲んだりする様子が聞こえたよ。実に不快な体験だった」と話しています。他にも5人のアメリカ人は戦争のような場所で雄叫びをあげる声を聞いたとのことですが、ルーマン氏によると、「誰が声を発したか」という報告はほとんどなく、アメリカ人の幻聴は個人的関係がない声が多いとのことです。

また、アメリカ人で家族の声の幻聴を聞いたのはった2人だけだったのに対して、インド人グループのうち半分以上は親類や家族が何かタスクを命じてくる、という幻聴を体験していました。共通していたのは「あたかも大人が子どもを諭すように」語りかけてくるということ。恐ろしい声を聞いた人数はアメリカ人より少なく、数人はおどけた様子や、魂や魔法が愉快な音を立てるような体験をしています。

By Nicolas GODON

ガーナでは「魂が肉体から離れて語りかけてくる」という文化を受け入れており、そもそも幻聴に関する問題の記述があまり多くありません。ガーナ人のグループで幻聴について話した内の10人は肯定的な体験だったとのことで、16人は「神が語りかけてきた」と報告しました。1人の参加者は「大抵の場合において幻聴は良いもの」と捉えているとのこと。これらの地域による違いは、ヨーロッパ人やアメリカ人が自己主張が強い傾向にあることと、欧米の外の国々では集合的意識が強い傾向にあることが関係しているとラーマン氏は説明しています。

By JustCallMe_♥Bethy♥_

ラーマン氏はこの研究結果について、「欧米諸国では幻聴が『恐ろしいもの』として共通していたため、統合失調症自体の症状の特徴には当てはまらない可能性がある」と話しており、文化的要素が総合失調症に与える影響は、考えられていたよりも強いかもしれないとのこと。今後は、患者が幻聴によって何を聞いたか?ということから、「幻聴との関係性を指示する」ことで症状を改善する特殊セラピーが可能になり得る、とラーマン氏は主張しています。

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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